大スキャンダルを処理せよ

第1話 前代未聞のスキャンダル

 羽ペンを握った手が、完全に止まった。


――いま、なんて?


「で、す、か、ら! ターベル教区司教が、スキャンダルを起こしました。どうするか考えてください」

 見習い修道士のコポが、腕組みをしてケヴィンを見上げている。

「スキャンダルって?」

「女性関係だそうです」

 開いた口が塞がらないとは、このことだろうか。しばし絶句した後、力なく呟いた。

「ターベルがオンナと……うそだ、ありえねえ」

「そうだと言うんだから仕方がないじゃないですか。ご本人も自白してるみたいですし」


 ターベルは、東第4教区を取り仕切る司教だ。

 東4と言えば、つまり、ここの真横である。

「まーじかあああ……。やってくれたねこりゃ」

 ゴブレット教の聖地である『聖大教会』は、東教区の第3と第4の中間に位置している。

 よって東4は、いわばお膝元なのであり、あと1コマ出世すれば、東教区をまるっと治める地位にだって立てるのだ。


「そもそも論で、司教レベルが女性とどうこうなんて、聞いたことねえよ。前代未聞」

「そうですかね?」

 コポは、訝しげな目で見上げる。

「数年前までは、けっこうあったって聞きましたけど?」

「誰から」

「修道女見習いの噂で」

「うさんくせーよ」

 ……と言ってみたものの、内心、信憑性が高いなと思った。


 思わず立ち上がり、室内をうろうろし始める。

「あーえー、それ処分決めるの俺でしょ? あーまじでやだやだ。気まずいしだるいし頭痛い」

 コポは返す言葉もなく、深いため息をついたあと、伝えましたからね、と冷たく言い放って出て行った。


 1人になった部屋で、頭を抱える。

 とりあえず落ち着くべく紅茶を淹れ、ローテーブルに腰掛け飲もうとしたところで、勢いがつきすぎて口を火傷した。

「うー……。俺1人で決めるのは荷が重すぎる」

 ぶつくさと呟き平常心を取り戻そうとするが、出てくるのはネガティブな言葉ばかり。


「仕方がない。責任転嫁だ!」


 きりりとした表情で言い切ってみたものの、ただただ虚しいだけだった。

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