第四十話「冒険者ナオ 2」

 サザーランド領の北部、ウォーレスの街から荷馬車で2時間ほどの場所に俺は来ていた。

 荷馬車を使えば2時間だが、チート能力全開で駆け抜けたので30分もかからず到着したが。

 

「今回はオークか。うんうん、いいね」


 村の中を鼻歌まじりに歩きながら、今回の依頼書を確認する。

 村近くの街道でオークを目撃されたとの情報があり、それを確認、オークと遭遇した場合は討伐してくれという、よくある依頼内容。 

 まずは村の近くで情報を集める。

 適当な人を捕まえ、話を聞けば、人の多くない村だ。

 すぐにオークを見たのはどこどこの誰々なら知ってると、とんとん拍子に目撃者の元まで辿り着く。

 一週間に何回も依頼をこなし、今では情報収集も慣れたもの。

 オークを見たというお爺さんから話を聞く。

 

「オラがむこうの山ん中で山菜を採ってた時に見かけただ。あれはまちげぇなくオークだっただ」

「なるほど、あそこで見かけたのですね。情報ありがとうございます」

「怖くて山ん中入れないから助かるが……、お嬢さん一人で大丈夫かい?」

「仲間がいますので心配いりませんよ。それにほら、私もそこそこの実力者なので」

「そっか。それなら安心だ」


 情報をくれたお爺さんにお礼を言い、村の外に出る。

 暫く歩くと、パタパタと近づいてくる音。

 音は頭上で止まり、同時に頭に重み。


「青……、重い」

「ここが一番落ち着くんだよ」

「その羽はなんのためについてるんだ……」


 当たり前のように俺の頭へ着地した青。

 今回の仲間、青、以上。

 なお、一緒に共闘してくれるわけではない。

 おひとり様パーティーとして活動中だ。

 1週間前、ナオとして冒険者登録した際は、レイも冒険者として活動するものと思っていたが、そんなことはなかった。


「? どうして私が冒険者の真似事をしなければならないのだ?」


 とは本人の弁。

 何で冒険者に登録したんだよと言いたい。

 なのでお爺さんには仲間がいるなんていったが、あれは嘘だ。

 ああでも言っておかないと、いらぬ心配や誤解を受けることを、この一週間で学んだ俺の処世術。

 今も《幻惑》の魔術でナオとして姿を偽っている。

 見た目を長耳族に偽っていることが幸いし、自分よりも上の年齢の者にも年下扱いされることはないが、どうしても儚げな少女としか見らない点には苦労していた。

 筋肉隆々の大男にでも化ければいいのかもしれないが、この魔術、あまりにも実際の姿と異なるものに擬態するのが非常に難しく、結局はアリスの姿をベースにするしかない。

 アリスの姿よりは不安を与えないが、それでも冒険者をやっている見た目には思われないため、「一人です」なんて答えた日にはそれはそれは心配されるは、おじちゃんも一緒に行こうかなど無駄な押し問答が発生すること数度。

 こうして「仲間います。一人じゃないです」とアピールするのが一番楽という結論に至った。

 

『場所の見当はついたのか?』


 そしてここにはいない第三者からの声が俺の首元から響く。

 首元に掛けているのは青い羽根――青の羽根を材料に作られた魔道具だ。

 声の主はレイ。

 今は遠く王都にいるはずの者の声。

 この魔道具は遠くの者とも会話できる非常に便利なものなのだ。

 ちなみにレイとリットン卿が共同開発で作ったものだったりする。


「だいたいは」


 おおよその場所さえ分かれば、後は固有能力の『索敵』を使えば位置はバッチリ。

 街道を外れ、オークみたという山に入っていく。

 

『アリスはオークについてどれくらい知識を持っている?』

「でっかい人型の魔物?」


 ゲームなどで見た姿を思い浮かべる。


『……つまり、何も知らないわけだな』

「そうとも言う」


 俺の答えにレイが呆れた顔をしているのが想像できた。

 ……だって魔物と戦った経験少ないですし。なんらな冒険者歴一週間くらいですし。

 と胸の内で言い訳をする。

 厳密に言えば、アリスとしても一応冒険者登録されているので歴はもう少し長いし、一月程前の森都襲撃の際に大量の魔物を討伐してはいるが、あれは群との戦いで個々の魔物がどういう種だったかなど考えている時間はなかった。


『オークは冒険者にとって、一つの壁と言われている』

「ほうほう」


 山道を歩きながらレイの解説に耳を傾ける。


『多くの冒険者にとって初めて対峙する自身よりも大きい魔物だ。

 加えて力もあり、多少の知恵が働く。

 集団で行動していたり、武器を扱うものもいたりと中々厄介な存在だ。

 優れた剣士で無ければ一撃で致命傷を与えるのは難しく、身体も脂肪で覆われているため、扱いやすい火属性の魔術に対してもある程度の耐久をもつ。これまで戦ってきたであろう魔物相手のように個々の力だけで倒すのが難しい』

「俺、今一人なんですけど」

『今の君の状態であればちょうどいい相手だろう』

「そうなんですかね……」


 今回の依頼を選んだのはレイだ。

 今回もと言った方が正しいか。

 魔術の修行としてこの依頼がいいだろう、と。

 ただ冒険者の真似事をするだけでは時間が勿体ないとのことで、魔術の修行を兼ねての依頼を選別してもらっている。

 勿論、普通に依頼を受ければ修行にならない。

 そのため俺は色々と制限を付けられていた。

 身体のあちこちに、俺の能力を制限する魔道具を身につけ、それだけではなく今回の依頼を受ける直前にレイがいる王都に飛び、一定の魔力を残して消費させられている。

 オーク討伐の適性ランク帯であるDランク相当の魔術師が持つであろう魔力しか残っていない状態だ。

 あと、今回の依頼は初級魔術の教科書に載っている魔術しか使っては駄目とも指示されていた。

 剣で首を一太刀で切り落とすことも可能だろうが、それをやってしまうと魔術の修行にならないので禁止されている。

 勿論何かあってはいけないので、護衛役として青がいるわけだ。

 なので、一応本当の本当にやばい状況になれば青は戦ってくれる。

  

『いつもの感覚で魔術を使っていればすぐに魔力が尽きるだろうから、よく考えて戦うように』

「了解ー。レイは冒険者とは無縁な生活を送ってそうなのに、よく知ってるね」

『君が無知なだけで、これは割と一般に知られている話だ』

「さいですか……」

 

 そんな会話をしながら進んでいると視界に赤い点が表示された。

 どうやら近くにオークがいるようだ。


「さて、やりますか」

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