第十三話「ラフィの姉」
「いやー、一瞬で姿を見失ったからびっくりしたよ!」
「……かくれんぼは得意なので」
俺は適当な言葉で濁す。
(正面から見ると、やっぱり成長したラフィにしか見えないや)
ラフィの姉、確か名前はミリィといったはずだ。
さらに観察してみると、肩に掛けている鞄も見覚えがある。
ラフィとお揃いのようだ。
鞄は何やらパンパンに物が詰まっており、しっかりと鞄が閉めれず、隙間からポーションと思われる瓶が覗いていた。
「いきなり姿が消えたのも何かの魔術?」
ミリィはズイッと顔を近づけ、瞳をキラキラ輝かせながら問いかけてきた。
「そ、そんな感じです」
俺は慣れない距離感に一歩後ずさりながら答える。
本当は魔術でも何でもない。
だからといって身体能力に任せ跳躍したなどといえば、余計な追及が飛んでくるのは明らか。
ラフィと一緒で、ミリィも好奇心旺盛とみた。
(どうして魔術と思った?)
ミリィは俺が一瞬で姿を消した理由を魔術ではないかと推測したが、裏を返せばミリィは俺が魔術を使えることを知っていたことなる。
一体どこで、そもそも根本的な問題として何故俺をつけていたのかという疑問もあるが。
疑問に思っているとミリィは腰をかがめ、俺と視線を合わせながら褒めてくれる。
「小さいのにすごいのね」
頭を撫でられた。
完全に子供扱いである。
「あの、なんで魔術を使ったと思ったんですか?」
褒め殺しに若干照れながら、俺はおずおずと気になっていたことを問うことにした。
素直に尋ねたほうが良いと判断したためだ。
容姿から俺は彼女をラフィの姉であると断定したが、それも推測にすぎない。
とは言え、目の前で俺の頭を撫でているミリィから何か後ろ暗い事情があるとは到底思えないが。
俺の疑問に、ミリィはニヤリと意味ありげな笑みを浮かべる。
「ふふふ、それはね……」
「それは……?」
「裏庭で魔術の修行をしていた姿を見ていたからです!」
ふふふ、ドヤ! と言わんばかりの笑みでミリィは告げる。
(そのタイミングから俺のことを見ていたのか……。全然気づかなかったぞ)
思い返してみると、レーレに探知スキルは習い、日常生活の中では常時使えるようになるべく発動するようにしていたが、魔術の訓練中は同時に発動するような器用なことはできなかったので気づけなかったということか。
そして思い出したように、
「ああ、すっかり名乗るのを忘れてたわ! 私の名前はミリィ。ラフィの姉よ。
あなたのお名前は?」
「アリスです」
予想通り、目の前の女性はラフィの姉である、ミリィであることが判明する。
「アリスちゃんね。ふむ」
一転、今度は何やら身体中をペタペタと触る。
さらに何故か耳をもみもみされる。
「あの……何か?」
「うーん、アリスちゃんはあまりラフィと似てないのね」
「ミリィさんはラフィとそっくりですね」
「あはは。よく言われるよ」
「私はラフィとは血が繋がっていませんし、似てないのも当然でしょ」
俺の言葉に何故かミリィは目を瞬き、首を傾げる。
「あら? アリスちゃんはラフィの子供じゃないの?」
「違います」
「なーんだ。家に帰ったらラフィが知らない子と一緒にいるのを見掛けたから、私はてっきり子供を連れて帰ってきたものだと思っていたわ」
「……順番的にミリィさんの方が先なのでは?」
「うー、聞きたくない。お母さんも最近口を開くたびに結婚はまだかー、孫がはやくみたいしか言わないのよ!
アリスちゃんのおかげで少しは小言が減るかと思っていたのに」
ミリィは綺麗な顔に渋面を浮かべていた。
本当に嫌そうだ。
「というか、どうして私の後をつけていたんですか?」
「いやー、家に帰ってきたら知らない子がラフィと一緒に居たからどんな子なのか観察と。
それから、どうも一人でおつかいに行くみたいだから心配でね~」
「そうだったんですか……」
「そういえば、パンの籠はどうしたのからしら?」
「……ここに」
あまり人前でポンポン見せない方がいいとは思うが、致し方ない。
俺は収納ボックスに仕舞っていた籠を取り出す。
何もない空間から突然現れた籠を見て、ミリィは再び目を丸くし、すぐに瞳をキラキラと輝かせる。
「すごいすごい! 流石はラフィが連れてきた子ね。
ラフィの子じゃないってことは、アリスちゃんはラフィのお弟子さんということでいいのかしら」
「はい」
ミリィの言葉に首肯する。
「私は魔術の才能からっきしだったからなー。うちの妹に虐められていない?
あの子、魔術のことになると目の色が変わるから。
もし困ったことが合ったらいつでも言ってね」
ニコリと微笑むと、俺が抱えていたパンが入った籠をミリィが自然に片手で持ち上げる。
同時に、反対側の手は俺の右手を握る。
「あ、あの」
俺は手ぶらになり、ミリィは鞄に籠と持つ状態になってしまった。
籠くらいは持ちますと主張したが、ミリィはそれを笑顔で制する。
「さぁ、家に帰りましょう」
◇
ミリィが帰ってきたことで家はより一層賑やかになった。
ラフィも嬉しそうで、
「お姉ちゃん、お帰りなさい」
と自然な笑みを浮かべながら出迎えていた。
ラフィはお姉ちゃん子なのかもしれない。
夕食では、青が占拠していた場所に俺が座り、これまで俺が座っていた場所にミリィが座る。
青は俺の膝上に移動だ。
エレナと同じでミリィも青に嫌な顔することなく、興味津々といった様子で観察し、触り、すぐに青のふかふかの羽毛に虜になっていた。
食事の中、エレナが再び結婚の話題に触れると、ラフィとミリィが似たように聞こえないふりをしていたのは思わず笑いそうになってしまった。
食事も終わりお茶を飲む。
「そういえば、ラフィがいるうちに森の中に入りたいんだけど、明日の都合はどう?」
「……うん、大丈夫」
ミリィの問いかけに、少しラフィは迷う素振りをみせるが、俺はせっかくなので行ってくればいいと思い、念話で「行ってくるといいよ」と伝えた。
と、言いながら俺も同行する気まんまんであったが。
間髪入れずに俺も会話に加わる。
「私も行きたい!」
挙手し、主張する。
なんとなくミリィであれば俺のお願いを断ることはないだろうと考えていたが、
「うーん、アリスちゃんはお留守番かな。けっこう道が険しいから。ごめんね」
予想外の回答。
でもミリィの判断は当然だとも思う。
見た目幼い俺を介護しながら森の中に潜るのは負担になるのは明らか。
ミリィの誘い方から、ただ森に薬草を摘みにいく、というわけではなさそうだ。
チラッとラフィを窺うが、念話で「あきらめて」と飛んできた。
がっくし。
ちょっと森の中の探索は楽しみにしていたのだが。
ここで武には自信がある! 足手まといにはならないよ! と主張しても余計に困らせるということは理解できたので諦めるしかなさそうだ。
意気消沈といった思いは、表面に如実に表れていたようで、少しミリィが申し訳なさそうな顔を浮かべていた。
と、突然良いことを思いついたとエレナがパンと手を叩き提案する。
「ならアリスちゃん、明日は私のお薬つくりを手伝ってくれないかしら?」
お薬つくりというとポーション造りということであろうか。
それは面白そうだな、とすぐに思考を切り替え返事をする。
「はい! 是非!」
こうして明日はエレナのお薬つくりを手伝うことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます