第三十七話「不明」
「ハァアッ――!」
細見の身体からは想像できない、気迫のこもった声と共にクララの重い一撃が白い魔物に叩きこまれる。
見た目で判断するなら俺の、この身体のどこに力が秘められているのかの方が謎なので、人のことは言えないかもしれないが。
チラリと見ている間にも一体を倒し、また一体と次々と倒している。
白い魔物は単純な動きしかしてこないので、攻撃が通用すればAランク冒険者の敵ではない。
俺は時折、危なくなったら支援できるように見ていたが、どうやら心配するだけ無駄なようだ。
受け持つ範囲の敵に集中できる。
「まぁ、それも当然なのか?」
突進してきた一体をさらに斬り伏せる。
脳内に伝わる白い魔物の情報。
初めて見る表記だ。
ストラディバリの時もレベルを把握することができなかったという経験はあったが、目の前の敵は本来種族や魔物の名称が表示されるべき場所に『不明』と記されている。
一体これはどういうことなのだろうか。
「レベルは見える……」
レベルだけで判断するのであれば、白い魔物は相当弱いことになる。
この隊商に帯同し、遭遇した魔物は弱くてもレベル10はあった。
だが、魔物に対する戦闘経験がそう多くない俺でも、それらの魔物と比べたら、この白い魔物のほうが強いように思う。
見た目が大きいから威圧的に見えるというわけではない。
動きは単純であるが、先程の冒険者が防御するだけでも必死であったように、一撃の威力は圧倒的である。
まともに喰らえば無事ではすまない。
「これっておかしくない?」
俺と唯一情報を共有できているヘルプへと向けて問いかける。
『イオナ様がくださった
俺の視界に表示される情報は間違っていないということになる。
固有能力が一体どういった仕組みなのかはわからないし、考えたこともない。
少し考えてみると、この世界でレベルという概念は一般的なものであり、レベルを調べるという行為は俺以外にも行える。
冒険者ギルドの一部職員がもっている固有能力、鑑定眼は俺が相手の情報を調べているのと同じ系統のものだろう。
(今までは種族や魔物の種類がわかったけど、目の前のこいつはどうしてわからない?)
先程、青は白い魔物を精霊に近い存在と推測していた。
(精霊は俺の固有能力ではわからないってことか?)
適当に仮設はたててみるが、いまいち納得はいかない。
(まぁ俺にとっては魔物の固有名詞がわかっても、あまり有用に情報を活用できないから問題はないか……)
名称不明の問題は棚上げにする。
とりあえず、わかった情報は敵はレベル1であるということ。
楽勝な敵であるはずだ。
確かに、大きく振りかぶり、振り下ろされる棒状の得物の攻撃は、動作が大きく、避けるのは簡単。
俺や、少し離れたところで獅子奮迅の働きをしているクララには造作もないが、前衛職で重い鎧で装備を固めていると回避行動は厳しそうではあるが。
あとは、戦闘を開始して少し時間が経つが、白い魔物同士で連携するといった動きもみられない。
一辺倒に、各々が視認した敵に向かって突撃してくる。
そのおかげで、白い魔物の視界に入っていれば、俺から向かわずとも勝手に近づいてくれるので楽はできている。
(一撃を与えれば消滅してくれるという点を考慮すれば、レベル1と言われても納得がいくか)
しかし、数が多い。
今更ながら、先程近くにいた双子の装備にも精霊の加護を付与しておけばよかったと後悔する。
「というか、青も手伝ってよ。でっかくなって、ドーンって一気に」
頭の上で帽子になっている青を恨まし気に、上目遣いで見た。
「いや、僕も役に立ちたいとは思うけど魔力が全然回復していないんだ」
「じゃあ、何のためについて来たんだよ……」
てっきり、小さくなったとはいえ魔術を使った支援でもしてくれるものと期待していた。
「少し気になる気配がしたからね」
「気になる気配?」
「うん。どう表現したらいいかな。
そうだね、言うならば君と同じ匂いがしたとでも表現するべきなのか……」
青は歯切れの悪い返事をする。
(俺と同じ匂い? どういう意味だろうか?)
「ほら、また追加だよ」
再び青に質問しようとした矢先、未だ見えている敵を処理しきれていないにもかかわらず、視界に再び複数の赤い目が浮かび上がってくるのが見えた。
「うげえ、魔術を温存してる場合じゃないか」
「剣から炎だしてぱぱっとやっちゃえばいいじゃないか。
さっきの攻撃なら君の魔力はほとんど消費しなくて済むよ」
「まじで?」
「うん。単に君に好かれたいという思いからのものだから対価を要求しないよ」
「何で突然精霊に好かれ始めたんだか……」
『おそらくはマスターが所有している武器の影響かと』
「こいつか」
初代剣聖であり、歴史上で最高の鍛冶師と評されるストラディバリ。
剣舞祭でも魔術は使えないと言いながらも、厄介な火属性の魔術を操っていた。
この『華月』の製作も手伝ったと言っていた。
何か火精霊を引き寄せる力が付与されていても不思議ではない。
ストラディバリのドヤ顔が脳内に浮かぶ。
「なんだか悔しいけど、便利だからいいや!」
試しに距離がある敵に向かい、刀を振り下ろす。
轟音をまき散らしながら火柱が上がる。
複数の敵を飲み込んだ。
遅れて熱波が俺の頬を焼く。
「これ制御できるのか……?」
頬が引きつる。
クララに助太刀する際に、今と同じ規模の火柱があがっていたら大惨事であった。
とはいえ少々過剰な威力と範囲ではあるが、幸い巻き込むと困る対象もいない。
「まあいいか。こっからはペースをあげていくぞ」
俺は不敵な笑みを浮かべた。
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