第七十二話「vs初代剣聖」

「くそっ!」


 悪態をつきながらも次々に襲い来る攻撃を躱す。

 直撃すれば少し火傷しました、ではすまない。


「ほら、どうした! 避けてばかりではつまらんぞ!」


 中央ではストラディバリが愉快そうに笑う。

 何か魔術を行使しているといった素振りは見えないが。


「これはどうだ!」

「くっ……!」


 先程と異なる魔術が俺の前で発現、爆発。

 その余波を受けて吹き飛ばされる。

 空中で体勢を立てなおし、着地する。


「剣技による戦いを望んでたんじゃないのか!」


 怒鳴るように俺は言い放つ。

 わざわざ剣舞祭と銘打たれて行われている祭典。

 魔術を使うのは無粋と思い、ジンとの戦いに於いても俺は魔術を封印して戦った。

 しかし、今のところストラディバリが行使してるのは誰がどうみても魔術だ。

 だが、そんな俺の反応をストラディバリは笑う。


「いやいや。

 俺様は剣で戦いたいなどとは一言も言っていないぞ? 

 俺様は強いやつと戦いたいと言った。

 魔術であれ、弓術、別に暗殺術でも構わん。

 俺様を楽しませてくれるならな!」

「そうかよ!」


 ストラディバリが言い放った言葉と共に、再び灼熱が襲い来る。

 俺を囲うように。


「《水壁ウォーターウォール》!」 


 発動した魔術とストラディバリの魔術がぶつかる。

 軽く防げると踏んでいたが、顕現した水の壁は瞬時に蒸発。

 白い蒸気が立ち昇る。

 視界が霞む中、俺は反撃を試みる。

 魔術を発動すると同時にストラディバリへと向かい駆け、刀を振り下ろす。


「ハッ!」 


 待ってたと言わんばかりに、ストラディバリは凶悪な笑みを浮かべ俺の刀を剣で受ける。

 

「重い! いい一撃だ!」

「そいつはどうも! あんたが使ってるのは何て魔術なんだ?」


 鍔迫り合い。

 俺はストラディバリに問う。


(魔術ではあるはずだが、こいつが使っているのは魔術とは違う)


 なぜなら、ストラディバリが行使する魔術のスキル名が一切わからないからだ。

 魔術であるならば、俺が所有する『看破』により見破れなければおかしい。


「俺様は生前も、この身体になってからも魔術を一切習ったことはない。

 だが、そうだな。

 この身体は今や精霊と言っても差し支えない存在であり、精霊の中でも上位に位置する存在だろう。

 どうやら気を利かせた下級精霊が、俺様がこうあれと念じたことを実行してくれるみたいだ。

 ……このようにな」


 すぐ近くで魔力が収束する気配。


「くっ!」


 バックステップで間合いを開けようとするが間に合わない。


「吹き飛べ!」


 ストラディバリの言葉と共に眼前で爆発が起きた。

 咄嗟に魔術障壁を張るが、意味を成さない。

 衝撃を直に受ける。

 勢いそのままに、空中に吹き飛ばされた。


「咄嗟に攻撃を流したか、だが甘いな」

「――!」


 空中、耳元でストラディバリの声。

 戦慄する。


「燃えろ!」


 ストラディバリが握る剣が炎を纏う。

 一閃。

 何気なく振るわれた剣は大地を穿つ衝撃波を放つ。

《残影》を発動し紙一重で回避。

 頬をかすめ、鮮血がしたる。


(後ろはとった!)


 好機。

 羽のないストラディバリは、俺に追撃を加えるべきわざわざ跳躍をしてきた。


(攻撃を躱すすべはない!)


 魔術により足場を形成。

 空中を足で蹴り、加速。


「はあああああああ!」


 無防備なストラディバリに向けて刀を突く。


「それでこそだ!」


 ストラディバリに絶望の顔はなく、歓喜の声を上げる。

 刀が届く、そう思った瞬間。


「なにっ!?」


 力が入っていない、闇雲に振るわれる剣。

 そのはずだった。

 表示されたのは《ヴォーン・ツィラー》というスキル。

 刀は返され、衝撃が俺に戻ってき、地面へと叩きつけられた。

 轟音。

 闘技場の一部にクレータができる。

 地面に叩きつけられたまま、寝ているわけにはいかない。

 動きを止めれば死に直結する。

 即座にバク転。

 先程までいた場所に、《火玉ファイヤーボール》が着弾する。

 バク転の着地先にも次々と。

 右手を突き出し強引に方向を変え、身体をねじりながらなんとか回避。

 怒声を上げる。


「魔術を習ってないってのは嘘か!?」

「習ってはいないといったが、使えないと俺様は一言でも言ったか?」

「この野郎!」


 折角身に付き始めた、女の子らしい言葉遣いを投げ捨て悪態をつく。

 涼しい顔で行使された初級魔術だが、俺が行使したものよりも遥かに威力が高いものが雨霰のように襲い来る。

 回避では追いつかない。

 方針を変更。


(火玉を斬る!)


「ほぉ」


 俺の行動にストラディバリは目を細める。

 魔術を物理的なもので防ぐのは難しい。


(強いイメージを保てば、魔術は発現する!)


 熱が顔を焼く。

 迫りくる火玉を斬り伏せた。

 俺の咄嗟の試みは成功だ。

 そして視界に《イマジナリーカウンター》と表示される。


「くくく、新しい剣技を咄嗟に生み出したか!」


 笑いながらも攻撃の手を緩めてはくれない。

 より苛烈さを増す。

 ストラディバリの周囲に展開する《火玉》以外にも、「俺を焼き尽くせ」との意思を実現すべく大地から次々と炎を纏う蛇の頭が生まれ襲い来る。

 《ヘイスト》、《ムーブメント》。

 攻撃の動作、移動速度をブーストする付与術を自身にかけ、俺は相手との距離を詰めることを選択した。

 ストラディバリの魔術は、俺以上のチートだ。

 魔術に魔術で対抗するには俺の力量が足りないと思わせるほどに。


「はあああああ!」


 一点突破。

 姿勢を低く、最短距離で距離を詰める。

 迫りくる魔術を最小の動作で弾き、躱す。

 間合いに入る。


「真っ直ぐ突進してくるとは、愚かな選択だな!」


 飛び込んできたのを待っていたと言わんばかりに、下から剣が振り上げられた。

 神速で剣が迫る。


「なんだと!?」


 だが、目を見開きストラディバリの声が驚愕のものへと変わる。

 懐に飛ぶこむ寸前のところで俺は物理法則を無視し、急停止したのだ。

 俺を斬り裂くはずだった一撃が鼻先をかすめた!


(あっ、やばい)


 急停止から再度懐へ潜り込み胴へと刀を叩きこむ予定であったが、俺自身も無理な急停止で重心がずれ、体勢が崩れる。

 スローモーションのように、振り上げた剣が再度振り下ろされるのを目で追っていた。


(ええい、ままよ!)


 せっかくの隙を逃すわけにはいかない。

 前のめりになる身体の勢いに身を任せ、右肩を入れながら半回転。

 スカートが舞う。

 左脚を軸に、右脚を振り抜いた。

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