第五十二話「予感」
ラフィが発した言葉に俺はきょとんとする。
「何でまた死霊術?」
ゲームの世界でも死霊術といえば陰湿であり、よく敵キャラが使うといった負の印象がどうしてもついてまわってしまう。
あまり意識はしていなかったが、ラフィの言葉によると、不死の王が死者を配下に置いていた術は死霊術の一種ということだ。
今関わってる一件でも死霊術により操られた人と対峙する羽目になったが、死者に対する冒涜としか思えない術であり、どうしても嫌悪感を抱いてしまう。
ただ、ラフィがその死霊術に興味を示すというのは意外であった。
一年の付き合いではあるが、ラフィの裏の顔が嗜虐性に富んでいる、なんてことはないと断言できる。
俺と出会った最初の頃は死者の集団を見て顔を真っ青にしていたくらいだ。
「死霊術そのものに興味があるわけじゃないの。
……私もあの術は嫌いだし。
興味があるのは死霊術によって配下を増やしていった方法。
その魔術過程に興味がある。
どうして死霊術を行使されたわけでもない人が、死者に喰われることで死者になったのか」
「どういうことだ?」
さらに俺は首を傾げる。
「アンデッドに噛まれたらアンデッドになるんじゃないのか?」
ゾンビに噛まれたものはゾンビになる。
前の世界でのお約束。
俺にとっては何も不思議なことではなかったが、ラフィは否定する。
「違う。
死霊術はあくまで対象の死体に精霊を宿して操る術」
なるほど、そういう意味かと、ようやくラフィが興味を持つ意味を理解した。
(よくよく考えたら、ああいうのはウィルス感染といった設定があるから、パンデミックのように描かれているわけだよな……)
魔術に関して、ラフィにはまだまだ及ばないがここ数か月で多少は知識を得た。
死霊術に関しての知識はほとんど持っていないが、死者を操る過程はおそらく俺が行使する石像召喚の魔術と似たようなものであると推測する。
石像召喚は対象を土塊に、精霊を宿すものだ。
対象を死者に、精霊を宿すとしたものが死霊術と定義付けられているのだろう。
そう考えると
俺は一度、己が召喚した石像を介して、土塊を石像として使役する方法を考えてみるが、全くうまい方法が見当たらない。
(精霊を使役する際に必要な契約はどうしてるんだ?)
暫く、むむむと唸りながらも知恵を捻るが、俺の魔術知識は残念ながら素人に毛が生えた程度に過ぎない。
術を習得するチートは持っていても、知識まではチートの力でどうにもならないのだ。
そもそも魔術のエキスパートであるラフィが興味を持つほどであるのだから、並大抵の知識では解明できない謎である。
「ようやくラフィが言いたいことはわかった。
でも、不死の王は神の不始末によって招かれた存在だ。
この世界の理から外れた存在だってことは考えられないのか?」
そう、不死の王は元を辿れば俺を召喚したドジ神によってもたらされた存在。
そのことも含め、俺が何故別世界からこの世界に招かれたのかといった話はラフィとしたことがあった。
だが、俺の考えをラフィは否定する。
「不死の王といえども、この世界の理に縛られていたと考えるべき。
ナオキの魔術が通用し、討伐されたのが何よりの証拠」
「俺もこの世界の理から外れていた可能性は?」
「……その可能性は否定できない」
俺としては冗談のつもりで言った一言であったが、ラフィは難しい表情を浮かべる。
「いや、そこはすぐ否定してくれよ」
「ナオキという存在が悪い」
何故かジト目で怒られた。
ラフィは帽子のつばを触り、位置をやや後方へずらすと帽子の陰から、ラフィの顔が覗く。
改めて俺の目を見ながらラフィは言葉を続ける。
「でもナオキが使う魔術は桁違いに強力であっても、決して理不尽なものではなく、この世の理に従ってる魔術しか行使していない。
ナオキが不死の王に使った魔術は私が使えるものばかりだったし。
……私より詠唱も短くて威力もおかしいけど」
ラフィの拗ね気味の言葉を聞きながら、声には出さないが思う。
(そりゃ、神様が最初から俺に与えてくれた聖魔術以外はラフィから盗んだものだしな……)
再会してからのラフィはどこか以前より柔らかい印象を受けるが、俺がラフィが行使する魔術をことごとく習得していったため、一緒に戦っていた時によく睨まれるような視線を感じることが多々あった。
睨まれるのも仕方がない。
身近にあったファンタジー要素がラフィの魔術が最もわかりやすかったので俺も少し調子に乗って次々と術を盗み、行使した。
魔術の腕に自信があったラフィはさぞかしプライドが傷つけられたことだろう。
今更ながら反省する。
ただ、そのことは表に出さず、ラフィの推測する不死の王の存在に納得を示す。
「なるほど。
確かにラフィの言う通り、不死の王が生み出したのは超常的な存在であっても、その存在自体はあくまでこの世の理から逸脱していないと考えられるってわけか。
それで、知識として興味があるわけだ」
「そういうこと、それと……」
ラフィは何かを言いかけ口籠り、言うか言うまいか迷う素振りを見せる。
言葉の続きを催促はせず、歩きながらじっと待つ。
やがて言いかけた言葉の続きが語られる。
「私はナオキの言う神という存在は信じていない。
……決してナオキの言葉を信じられないという意味ではないから誤解しないでね。
単に私が自らの目で見て確かめてないことは納得できない性格だから。
私は自身が持つ知識からでしか物事を推測できない」
ラフィが歩を止めた。
振り向き、俺に告げる。
「私は不死の王という存在に対して一つの推測をしてる。
不死の王も決してこの世の理を外れた存在ではない。
ということは、あの災厄は何者かによって起こされた人為的な災厄なのではと私は考えてる」
その言葉を黙って聞いた俺は、ラフィの推測を否定することができなかった。
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