第四十四話「指名依頼」
「何で二人が?
というか、よく俺がここにいるってわかったな」
俺は予想しない二人の来訪に驚きながら、小声でアレクに尋ねる。
「お姫様にアリスならここにいるって聞いて来た」
「ああ、なるほど」
「なんじゃ、お前さんの知り合いか?」
先程まで酷い姿を晒していたガルネリであったが、のっそりと立ち上がると何事もなかったかのように問いかける。
「ええ。こいつの保護者?みたいなもんです」
「おい」
俺の苦言を無視してアレクが言葉を続ける。
「初めまして、かの有名なジュゼッペ・ガルネリ殿とこうして対面できるとは光栄です」
「お前さん見たか、これがわしに対する正しい反応じゃ」
アレクのかしこまった態度にガルネリは気をよくする。
「ガルネリさんって有名だったんですか?」
その言葉にガルネリはがっくりと肩を落とし、アレクはやれやれと肩を竦める。
「アリス、ガルネリ工房の剣っていたら、その剣一本で遊んで暮らせるだけの価値があるとんでもない剣だぞ」
「え……、そうなの?」
ジンから腕のいい鍛冶師を紹介してくれと頼んだが、まさかそんなレベルの鍛冶師だとは思わなかった。
(というか、そんなすごい鍛冶師とか聞いてないし!
え……、俺そんな価値ある剣をぽきぽき折ってたの?)
表情には出さないが、背中に嫌な汗をかく。
後でぽきぽき折った分の請求が来ないか不安だ。
そんな思考を巡らせていると、ちょいちょいと袖が引っ張られる。
横にはいつの間にかラフィが立っていた。
ラフィは自分の口と、俺の目の前にある肉を交互に指さす。
つまり、肉をよこせと主張しているようだ。
俺は肉をフォークでとると、ラフィの口に運んでやった。
口に入れた瞬間ラフィは硬直、すぐに蕩けた笑みを浮かべる。
すごく幸せそうだ。
(この前からラフィの新しい表情がよく見れる)
ちょっと和んだ。
そのやり取りをアレクは黙って見ていたが、再び口を開く。
「……まぁ、お前が知らないのも無理もないか。
この世界の人間であれば、いつかはガルネリの剣を持ちたいって思うくらい、目の前にいるおっさんはとんでもない人だぜ。
そんな人相手に、お前は何をやってるんだか……」
「……いや、ガルネリさんが酒を寄こせって私に泣きついてきただけだから。
私は何も悪くない」
「待て待て待て。元々はわしの酒を、お前さんが全部隠したのが原因じゃろ!」
「だってガルネリさん、お酒飲むと半日は剣を打てないんでしょ?」
「…………そんなことはないぞ」
「今、すごい間がありましたよね」
「気のせいじゃ。そもそもわしらドワーフ族にとって酒は水と同義!
瓶の1つや2つ空けたところで仕事に支障はきたさんわ!」
「うわぁ、すごいダメ人間がいいそうなセリフだ……」
俺は絶対刀が完成するまで酒は渡さないと決めた。
「それで、アレクはどうして俺――私を訪ねて来たの?」
ガルネリを無視して、改めてアレクがここに来た理由を尋ねる。
その質問に、簡潔な答えが返ってきた。
「お前さんに指名依頼だ」
「指名依頼?」
「冒険者ギルドから、アリスにやってほしい仕事があるってことだ」
「ええ……、このタイミングでか。
それって断れないの?」
「諦めろ。冒険者ギルドに所属するってことは、集団としての義務を果たさないといけないこともあるってことだ」
「こんな幼い少女に依頼するとか、冒険者ギルドは人材不足……?」
「ギルドの職員はお前をそんな目では見てないだろうな」
俺には思い当たる節がありすぎた。
先日もアレク、ラフィの三人で迷宮を潜って荒稼ぎし、ほとんどをギルドの受付で換金した。
そもそも王都冒険者ギルドのトップ、支部長であるロベルトが俺の特例でのギルド加入を許可しているのだから、実力は十二分に理解しているだろう。
名指しで依頼が来るのも仕方がなかった。
「……でも、その依頼アレクとラフィにも来てるんだよね?
俺いる?
正直二人の実力なら大抵のことは何とかなるでしょう?」
「いや、俺らが冒険者ギルドに加入したのはお前が加入したがったからだし」
「責任とるべき」
仲間思いのアレクとラフィの有難い有難いお言葉であった。
(早く刀は完成させたいけど、急ぎでもないし仕方がないか……。
せっかく加入させてもらった冒険者ギルドと軋轢を生んで、強制的に脱退とかになったら嫌だし)
溜息を吐くと「わかった、行く」と返す。
「んじゃ、俺は一つ目の依頼は達成だ。
臨時収入ラッキー」
「おい。一体どんな依頼を受けた」
「アリスを説得して冒険者ギルドに連れてくるって依頼だ。
いやー、持つべきものは友だな。
指名依頼だから報酬も中々だぜ?」
「……あとで奢れよ」
「アレクも私も、支部長にアリスを連れてきてって泣きつかれた」
「何でそんなに俺のことを?」
王都迷宮のおかげで、俺と同じAランク、しかも俺と違いコツコツと実績を重なてきた実力も信頼も置ける冒険者がゴロゴロいるはずなのに、わざわざ俺に拘る理由が思いつかなかった。
その疑問にアレクは少しトーンを落として答える。
「つまり、何かやばい依頼ってことだ」
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