第三十七話「ニュースタイル」


 契約は滞りなく終わり、青が付与された剣は淡い青い光を発していた。

 

「青、問題なさそうか?」

『うん、問題ない。いい剣だ。

 僕の力が引き出せるか試しに魔術を行使してもらっていい?』


 青の要望に応えて、簡単な魔術を行使。

 剣を通して魔術が発動されたのを感じた。

 

『今度は僕の意思で魔術を行使できるかやってみるよ』


 俺が先程発動した同じ魔術が顕現する。

 ただ違うのは俺に負荷が一切かからず、魔力も青によるものであるという点だ。


『問題なく力は出せそうだ。

 アリスの魔術も僕の魔力で肩代わりすることも可能だと思う』

「それは心強い」


 これで青が攻撃魔術担当、ヘルプが補助魔術を担当。

 適宜俺も魔術を行使しながら近接戦闘も行えそうである。

 何より青を介することで、俺が魔術を行使する際の負荷を無くすことができるのは大きい。

 頼もしい戦力だ。

 ただ青にずっと頼り、俺の身体がいつまでも魔力放出に慣れないのは良くない。


(迷宮を無事脱出できたら青には頼らないようにしないと……)


 静かに決意する。


「さて、今日も長い一日になりそうだ」


 呟き、俺はマリヤを起こしに踵を返す。



 ◇



「マリヤ起きて」

「……んぅ」


 マリヤの肩を軽く揺する。

 反応はするが、一向に起きる気配がない。

 数日の付き合いで判明したが、マリヤは寝起きが苦手だ。

 根気強く呼びかけること数分、ようやくマリヤは目を覚ました。


「あれぇ……、アリスちゃんおはよぉ」

「マリヤ、おはよう」


 マリヤからブランケットを受け取り、収納ボックスに仕舞う。

 二人で軽く身支度を整えると、朝食をとる。

 食べ終えると、俺はマリヤに話を切り出す。


「マリヤ、地上に戻る道がわかった」

「え、本当に!?」

「ちょっと裏技みたいな方法だけどね。

 ただ、その途中ですんごい強いのと戦わないといけない」

「具体的にどのくらい強いの?」


 どのくらい強いかと言われても漠然と強いとしか表現のしようがない。

 俺ははっきりと戦う相手の名を告げることにした。


「戦う相手は竜だね」

「り、竜? お伽噺とかで出てくる?」


 マリヤは俺から飛び出た言葉に目を白黒させ問い返す。


『そう。お伽噺とかで出てくる竜だよ』

「け、剣がしゃべった!?」


 俺の腰に吊るした剣から声が発せられたことに、マリヤはさらに驚く。

 その反応に俺も驚く。

 青の声はヘルプと同じで、俺にしか聞こえないものと思っていたからだ。


『それはこっちの世界の物に付与され顕現されているから、彼女にも僕の声が聞こえるんだよ』

「な、なんの話」

「い、いや。マリヤにも青の声が聞こえるのに驚いて」


 青は剣をマリヤの前に見せる。


「青にその理由を尋ねてた」 

『初めまして、お嬢さん。

 僕の名前は青。

 今はこんななりだけど、もともとは竜と呼ばれた存在だったものだよ。

 よろしくね』

「え、竜? あれ、戦うのも竜?」


 突然のことに色々と混乱するマリヤ。


「実はね――」


 俺はマリヤに先程青とした内容をかいつまんで説明する。

 もちろん、青がアリス達を迷宮の奥底に落としたということも話した。


「事情はわかったけど……」

「今は青の要求を飲むしか私たちが地上に戻るのはいつになるかわからない」

「でも、青の本体っていうのは相当強いのよね?」

『強いよ。でも、僕の見立てではアリスの方が強いから大丈夫大丈夫』


 根拠のない保証を青がする。


「……青はこんなこと言ってるけど、まだ実際に見てないから何とも言えない。

 とりあえず、青の本体のところまで到達したらマリヤは私の後ろに。

 自分の身を守ることを優先して」

「わかった」


 マリヤは俺の言葉に素直に頷く。


「それじゃあ、この杖はアリスちゃんに返さないとね」

「杖はマリヤが持ってて」

「でも、アリスちゃんが使った方がこの杖の性能は引き出せるよ?」

「大丈夫」


 俺は青に簡単な魔術を行使するように命令する。

 魔術は即座に発現し、突如目の前に氷塊が出現した。


「青が付与されたこの剣なら、世界樹の杖に引けをとらない」

「す、すごい」

「あと出発前にマリヤにはお願いしたいことがある」

「私にできることなら」


 収納ボックスから短剣を取り出し、マリヤに手渡す。

 マリヤは短剣を受け取りながら、顔にクエスチョンマークを浮かべる。


「アリスちゃん、これは?」

「マリヤに私の髪を肩ぐらいまで切ってほしい」

「え!? でも、アリスちゃんせっかく伸ばしてる髪なのに」

「戦いの邪魔。お願い。

 マリヤが切ってくれないなら自分で切るけど……」


 跳んで跳ねて動き回っているとどうしても長い髪は視界を遮る。

 これまで戦闘に直接支障をきたしたことはなかったが、いい機会だと俺は考えていた。

 自分で切ると不格好になりそうだったのでマリヤにお願いしてみたのだ。

 じーっと上目遣いで俺はマリヤを見つめる。

 マリヤは俺の言葉を否定しようとするが、根負けした。


「アリスちゃんがそう言うなら……」


 渋々とマリヤは了承する。


「マリヤと同じくらいでお願い」

「はい、わかりましたよお嬢様」

 

 俺は後ろを向き、髪をマリヤに委ねた。

 慣れた手つきでマリヤは俺の髪を切り、整えていく。


「マリヤ慣れてる」

「孤児院ではよく髪を整えてあげてたからね。

 でも、アリスちゃんみたいな綺麗な髪を切るのはもったいないな……」


 やがて髪を切る音が止む。


「うん、完成。こんなものかな」

「ありがとうマリヤ」


 試しにその場でくるくると回ってみる。

 視界良好。

 いい感じだ。


『良く似合ってるよ』

『マスター、いい感じです』


 自分で姿は見えないが竜と精霊のお墨付きもでた。


「マリヤ、準備はいい?」

「うん。私はいつでも」


 因みにマリヤには具体的にどうやって青の肉体の場所まで行くのかをまだ説明をしていない。


「青、お願いできる」

『任せて』


 俺の言葉に青が応じる。

 魔力が渦巻くのを感じ、直上に穴が穿たれていくのが見えた。

 マリヤは呆けた顔でその様子を眺める。


「マリヤ、ちょっと失礼」

「え、なに。きゃっ!」


 俺はマリヤをお姫様抱っこする。


「あ、アリスちゃん突然何を」

「んじゃ行くよ」

「え、行く、っきゃあああああああああああ!」


 脚に思いっきり力を込め跳躍。

 瞬間、マリヤの絶叫が響き渡る。

 連続的に魔術で空間に足場を形成、そこを蹴り上げどんどん上へ上へ登っていく。

 俺達は暫く世話になった木陰を後にした。

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