第二十八話「食糧」


「数は三。レベルは三十五程度、どうする?」


 俺は道の先を徘徊している魔物の情報を後ろを歩くマリヤに小声で伝えた。

 緊張した気配が伝わってくる。

 少し考え、マリヤの決意は固まり「やろう」と口にする。

 答えを聞き剣を構える。


「いつものように私は魔物の注意を引き付ける。

 一気に倒そうと思わなくていいから、一体ずつ確実に狙っていって」

「わかった」


 俺の言葉にマリヤは杖を少し強く握るのが見えた。

 苦笑する。

 あえて声は掛けず、俺は魔物に向かい駆け出した。


「はあああああああ!」


 声を出し、魔物の注意を引く。

 俺の声に反応し魔物が行動を開始する。

 魔物の名はシャドーフロッグ。

 名前から想像できる姿はカエルだが、一般的なカエルと違い見た目はシャープ。

 遠距離の敵には溶液を吐き出したり長い舌で攻撃してくる。

 近づくと今度はカエルという名前を冠しているくせに、毒を含む鋭い爪を持つ前脚で攻撃してきたりと厄介であった。

 吐き出してくる溶液を回避し距離を詰める。

 すぐさま前脚による薙ぎ払いが襲う。

 剣で受け流す。

 受け流した力を利用し、横にベクトルを移すと、別のシャドーフロッグの横っ腹を蹴りつける。

 ぐにゅっと不思議な感触。

 接触した瞬間は柔らかいのだが、すぐに硬い感触へと変化する。

 巨大なシャドーフロッグが宙を舞う。

 今回の戦闘で俺から致命傷となる攻撃はしない。

 やがて後方から、俺が教えた詠唱が聞こえてくる。

 

「暗雲より生まれし雷光よ、穿て《雷槍ライトニングスピア》!」


 マリヤが紡いだ詠唱が顕現。

 閃光が迸り俺に一番近いシャドーフロッグに殺到し、右脚を焼き飛ばした。

 身体に生じた痛みに、シャドーフロッグが狂乱状態になる。

 様々な方向から当たれば致命傷となる攻撃が振るわれるが、軽くステップで回避。

 めざとくマリヤを標的にかえたシャドーフロッグの方に向かい蹴り飛ばした。

 二体が衝突する。

 魔物同士「てめえ、なにやってんだ!」と言ってるかのようにお互い声を上げる。

 そこにマリヤの追撃の魔術、先程と同じ『雷槍』が着弾した。

 威力は十分。

 先程と違い、頭部の外皮を突き破り、致命傷を与えた。

 巨体が倒れる。あと二体。

 すぐ、シャドーフロッグの舌が襲う。

 変幻自在に動く舌は厄介。

 回避しても、すぐに追従してくる。

 ぎりぎりで舌を回避、身体を舌にそって前に滑り込ませた。

 シャドーフロッグは舌で俺を掴もうとする。

 それを待っていた。

 シャドーフロッグの顔の目の前、舌を斬り飛ばす。

 狙い通り。

 舌を斬られたシャドーフロッグの怒り狂う表情が目に入る。

 すれ違いざま、カエル野郎の顎下を蹴り上げるおまけつきバク転。

 蹴られたシャドーフロッグは宙に浮く。

 向けられた腹、他の部分を覆う皮膚に比べて柔らかく攻撃が最も簡単に通る場所にマリヤの『雷槍』が着弾した。

 

「Syaaaaaaaaaaa!」


 シャドーフロッグの絶叫が響き渡る。

 宙を浮き、腹を貫かれた状態で地面にたたきつけられた。

 仰向けのまま手足をばたつかせる。

 自分をこんな目にあわせた相手に向かい、呪詛のこもった黄色い目で睨みつけていた。

 マリヤの一撃は致命傷にたるものと判断し、俺はシャドーフロッグの脳天を一突き。

 痙攣し、やがて動かなくなる。

 残り一体。

 攻撃してこないなと思っていたら、形勢不利と見たか、逃げ出していた。

 俺はすぐさま追撃しようと思ったが、踏みとどまる。

 マリヤに任せることにした。


「冷めぬ大地よ吹き付けろ我が領域に、凍てつけ《氷結フリーズ》!」


 程よい温度に保たれている迷宮内、冷気が発生する。

 逃げ出したシャドーフロッグの脚を氷が捕まえ、やがて全身を覆った。

 これで全部。


「ふう……」


 俺の後ろ、マリヤが一仕事終え、息を吐き出した。

 緊張の糸が切れたのか、ぺたりと座り込んだ。


「で、できた」

「うん。見事な『氷結フリーズ』だった」

 

 マリヤを誉め、手を掴み立ち上がらせる。

 俺がマリヤに教えた魔術は初級魔術の基礎三種、中級魔術の『雷槍』、そして複合魔術の『氷結フリーズ』。

 これはチームメンバーであるクロエが使用していたマリヤにとって見慣れた魔術からピックアップしたものだ。

 マリヤは驚異的な早さで魔術を習得していた。

 元々魔術に適性があり、治癒術を扱っていたこともあるのだろう。

 しかし、一つの壁にぶち当たっていた。

 複合魔術だ。

 練習でもうまく発動せず、ここ数日先に進めずいたが。 


「まさか実戦で初めて成功するなんて思わなかった」

「やっぱり魔術も実戦あるのみなんだって。次から、教えた魔術の練習期間なんて設けずに実戦で試行錯誤しながらやるに限るかも」

「いや、さすがにそれは私の胃がもたないからやめて」


 俺とマリヤは戦利品の回収をしながら会話に興じる。

 

「これ……食べられるの?」

「ちょっと禍々しいけどカエルならいけるでしょう」


 マリヤの疑問に「確かカエルって鶏肉っぽい味がするって聞いたような?」といったことを考えながらシャドーフロッグを肉片に加工し、収納ボックスに仕舞っていく。

 迷宮内での大事な食糧源だ。

 ……収納ボックスにはたまたま買い込んでいた食材がたんまり残っているが。

 魔晶石も当然回収する。

 爪や皮も武器や防具の素材になりそうであった。


(これも回収)


 結局、解体して分別はしたもののほとんどが俺の収納ボックスに入っていった。


「本当にその魔道具便利ね……。一般に普及すればどれだけ冒険が楽になるか」

「地上に戻ったら、複製できないか研究してみる?」

「絶対買う。アリスちゃん試作品ができたら私に第一号は売って!」

「その前に、いつ地上に戻れるかが目先の問題だよな……」

「本当にね……」

 

 今は安全場所を確保しながら、マリヤに魔術指南を兼ねながら魔物を討伐しながら生活している。

 未だに俺達は迷宮のどこにいるのか全くわからず、一向に地上に戻る糸口は掴めない。

 俺は落下した日のことを思い起こす。

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