第十四話「対リザードマン」


「次の敵の数はどれくらいだ?」


 ゲルトはミハエルに問う。

 ミハエルは探知系のスキルを使い、まだ見えぬ魔物の情報を調べていた。


「数はさっきと同じくらいだ。種類までは俺にはわからない」

「そうか」

「今日は大儲けだと思ってたら大損だぜ、こりゃ」

「……お前が蒔いた種ということを忘れるなよ。

 生きて帰れたら奢れよ」

「ああ、穴場のいい店を見つけたんだ。そこで奢ってやるよ」


 ゲルトとミハエルは拳を合わせ、持ち場についた。

 ミハエルと征北結社の前衛一人が右の通路の壁役、ゲルトとライムントが左の通路の壁役だ。

 先程までは、左はゲルト一人で壁役をこなしていた。

 前衛から抜けてきた敵をライムントとクロエで処理していたわけだ。


「今度は絶対に通すわけにはいかない」


 前衛を抜けられると、後ろは接近戦が得意ではない後衛しかいない。

 

「行くぞ!」

「了解っと」


 ゲルト達の通路に魔物が見えた。

 ゲルトとライムントは距離を詰めることを選択する。


「今度はトカゲ野郎の御一行様か!」


 現れたのはリザードマン。


(一撃で仕留める!)

 

 先頭のリザードマンに向けてゲルトは剣を振り下ろす。

 空をきる。

 肉を粉砕する手応えがない。


(こいつは……!?)


 ライムントがゲルトに続き、槍を突きだす。

 驚くべきことにリザードマンはその槍を、手にした三月刀シミターで弾く。

 

(さっきの敵とは違う。

 最初に遭遇したミノタウロスと同レベルの敵か!)


 一撃で葬れなくても、連携すれば戦いようはある。

 ゲルトは切り替え、ライムントの攻撃に連動し剣を振るおうとした。


「なっ!」


 咄嗟に剣で回避。

 ゲルトに向かい、矢が飛んできた。

 射手主に目を向ける。

 そこにいたのもリザードマン。

 続けて、二発目、三発目と飛んでくる。

 剣で弾く。

 ライムントが一旦下がる。


「ゲルト、こいつら」

「ああ、厄介だ」


 魔物の中にも集団で狩りを行うものはいるが。

 人のように、緻密に連携を行う魔物はみたことがない。

 ゲルト達と対峙するリザードマンは集団だが、先程の魔物のラッシュに比べれば数は少ない。

 八匹だ。

 ゲルトが踏み込む前にリザードマンが飛び込んできた。

 三月刀を剣で受ける。

 別のリザードマンがゲルトの横から斬りこんでくる!


「ッのやろう!」


 力任せに正面のリザードマンを吹き飛ばし、一撃を間一髪で回避。

 ライムントも二匹のリザードマンに襲われている。


(分断された!)


 吹き飛ばしたリザードマンが起き上がり、再びゲルトに襲い来る。

 左右両方から、二匹のリザードマンが。

 ゲルトは左のリザードマンに踏み込む。

 踏み込んでくるとは思っていなかった、リザードマンの意表をつく。

 上段からの一撃を咄嗟に三月刀で剣を防ぐ。

 

(まずは一匹!)


 準備ができていない防御。

 ゲルトの前に大きな隙をつくる。

 見逃さず、流れる動作で横を薙ぎ、リザードマンの胴を切断する。


「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAA」


 断末魔の悲鳴が響く。

 もう一匹のリザードマンが襲い来る。

 仲間がやられて怒っているのか、先程よりも重い一撃。

 が、単調。

 ゲルトはカウンターに一撃を入れようと試みる。


「っと、後ろがいたか」


 叩き込もうとした一連の動作の前に、弓が牽制してくる。


「めんどうな」

「《魔術障壁マジックシールド》!」


 唐突にクロエの詠唱が挟まれる。

 肌を薙ぐ、一瞬感じた熱波。

 魔法障壁はゲルトを殺す一撃を秘めた魔術を防いだ。

 ゲルトは目の前の光景に冷や汗を垂らす。

 クロエは油断なく杖を構え、リザードマン後方をにらんでいた。


「おいおいまじかよ」


 魔術を使えるリザードマンがいた。

 魔物が魔術を使うなど聞いたことがない。

 征北結社の魔術師が後方に向けて魔術を放つ。

 ことごとく防がれる。

 

(こっちの方が魔術師の数は多いはずなのに!)

 

 リザードマンがゲルトを最大の脅威と認識したのか、ライムントの相手をしていた一匹がこちらに向かってくる。

 ライムントは執拗に弓で狙われ、動きが制限され、取り付いているリザードマンは槍の間合いにうまく入り込んでいる。

 苦戦していた。

 いや、ライムントがうまく致命傷を回避しているという表現の方が近い。

 ゲルトは焦燥感にかられた。

 まずい。


「どけえ!」


 剣を振るう。

 躱す、防がれる。

 

(こいつら……!)


 先程と違いリザードマンは明らかにゲルトの攻撃を防ぐ役割に徹していた。

 ライムントを襲う矢は勢いを増す。

 クロエも魔術で支援しようとするが、リザードマン側からも防御魔術が発動、妨害される。

 征北結社の魔術師の練度では、乱戦状態のライムント近くで魔術は使えない!

 しかし、後方の敵魔術師にも攻撃は届かない。

 手詰まりだ。

 

「うらあああああああ!」


 力任せに振りおろす。

 がっちりと、剣を受け止められる。

 すぐに剣をひかねば、二匹目の攻撃がゲルトを襲う。

 そう思っていた。


「しまった……!」


 違った。

 リザードマンの目的は。

 ゲルトの足止めと思っていたもう一匹のリザードマンが隙をみて駆け出した。

 後方へ。

 すなわち、クロエの、マリヤがいる場所に。

 リザードマンが一直線に、狙いはマリヤだ。

 目ざとく、後方の治癒術士を潰しにかかった。

 クロエの詠唱は間に合わない。

 致命的な一撃が襲う、襲ってしまう。

 間に合わないとわかっていながら。

 斬りあっていたリザードマンを吹き飛ばし、反転。

 ちくしょう、ちくしょう。

 油断していたわけではなかった。

 頭の中で、魔物が知略をめぐらすという考えに至らなかった。


 リザードマンの凶器が振り下ろされる。


 後悔。

 様々な後悔がゲルトを襲った。

 凶器はマリヤに届く寸前で止まっていた。


「え?」


 何が起こったかわからなかった。

 マリヤも、目の前に迫った凶器に固まっている。

 リザードマンはどこから生えたのか、樹木に縛られていた。

 縛られたリザードマンにも何が起こっているのかわかっていないようだ。

 

「Ga、Gya……?」


 戦闘音が止んでいた。

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