第四話「冒険者志望」
俺は冒険者ギルドの登録も国王の口添えがあれば簡単に特例として認められるのではとの期待があった。
しかし、予想と反し俺の言葉にセザールは渋面を見せる。
「冒険者ギルドへの登録か。そうか、お主は今は年齢が十歳ということになっておるから普通には登録できんのだな。
しかしその願いは簡単にはいかん。
冒険者ギルドは国の介入を許さない独自組織じゃ。
それ故に各国に拠点が設けられておる」
俺が思った以上に難題であった。
「実は俺、十七歳ですと認めてもらえれば解決する……?」
その場にいた三人は、今一度俺の姿を見る。
「無理じゃな」
「無理だな」
「無理ね」
「ですよねー」
十歳でも割と怪しい容姿だ。
溜息をつく。
「しかし、どうして冒険者ギルドに加入したいのだ?
余程の実力者でもない限り、小間使いと待遇は変わらんぞ?
……まあ、アリス君の場合は実力に疑問はないが」
エクトルは疑問に思う。
「確かに。一攫千金を夢見るのもいいかもしれないが、そもそも君はサザーランドのじじいの金を勝手に使っていいのだろう?」
俺はサザーランドの資産を自由に使っていいと言われていた。
とはいえ、今の俺は衣食住のほとんどが学校生活であるため、そこまでお金は必要ない。
冒険者になりたい目的は、俺にとって金ではない。
ルシャールの疑問に答える。
「俺が異世界から来たという話は聞いていますか?」
「ああ、ここの者はガエルから聞いて知っておるぞ」
「俺ってこっちの世界に来てから来る日も来る日もアンデッドの相手ばかりだったんですよね……」
「それは、なんというか、本当にご苦労だったな」
俺は心底うんざりした顔で続ける。
「何て言うかな。
俺が元々いた世界では魔術もなければ、人を脅かす魔物みたいな存在もいない。
人類が踏み入れたことのない未開の地もほとんどない。
そう、冒険って体験をしたことがないんですよ。
……もちろん疑似的に体験できるものはありますが」
俺も朧げな記憶の中に、自身もファンタジーな世界観のゲームに興奮し夢中でプレイしたものがある。
「でも、こっちの世界ではそれができる。
そして勇者として呼ばれた俺は、幸運なことに力を持っている。
自由にこの世界を見て回りたいんですよ」
もちろん今すぐでなくてもいいですけど、と付け加えておく。
「すぐに出ていかれては校長の私の立場がなくなるから、もう暫くいてくれると助かるよ」
ルシャールは苦笑しながらも俺の発言にほっと胸を撫でおろす。
どうやら、俺がいつ学校を飛び出していくのか内心ははらはらしていたみたいだ。
「そういう理由で冒険者にね……。
魔物と戦いたいとかであれば騎士団に喜んで入隊してもらうところだが、話を聞くと誘いにくくなったな」
「わしとしてもこれほどの人材、簡単に他国へ渡したくないのじゃが。
やはり、アニエスとくっつけるか?」
セザールは冗談とも本気ともとれない発言をする。
(アニエス嫌がるだろうな……。
これ以上嫌われたくないから、早く謝らないと)
俺は絶賛アニエスに距離を置かれていることを思い出す、気持ちが沈む。
「それに今後地下を
「確かに一理あるな。
ルシャールが補足してくれる。
「一応わしとエクトルで冒険者ギルドには話してみよう。
あまり期待せず待っといてくれ」
「お願いします」
そこで扉がノックされ、一人の騎士が入室する。
国王の席に座る俺を騎士が一瞥し、騎士はぎょっとするが、言葉を続ける。
「陛下、次の予定の時間です」
騎士の言葉を合図に四人だけの秘密の会合は終了した。
◇
俺は帰りもルシャールと同じ馬車に乗り学区へと戻る。
「まだ午後の試験に間に合うがどうする?」
「遠慮します」
即答した。
ルシャールも苦笑いだ。
「そう言うと思ったよ。
私もあまり勤勉な学生ではなかったが、一応私が特例で入学を許した体裁がある。
ほどほどに頼むよ」
俺はルシャールと別れ、寮へと帰ってきた。
久しぶりに二階の自室へと向かう。
積み上げられた本に薄っすらと埃が積もっていた。
まず玄関横に立て掛けていた世界樹の杖を、先程セザールから貰った宝物庫の指輪を発動し、収納する。
(ゲームの収納ボックスみたいだな)
魔力を流すと、宝物庫の指輪で管理している道具が脳内にイメージされる。
俺はそのまま収納ボックスと呼ぶことにした。
続いて永らく整理されず、人が暮らしていい部屋でないといった不名誉な言われ方をしていた部屋を片付けることにした。
収納ボックスに仕舞うだけの簡単な作業だ。
ぽいぽいっと異次元に投げ込んでいく。
(これってどれくらい入るのだろうか?)
肝心なことを聞いていなかったことに今更気付いた。
(今度ルシャールにでも聞いてみよう)
アリス式簡単お掃除は、そう時間をかけず終わる。
収納ボックスには問題なく部屋の本や剣、ローラがあれもこれもと持たせた私服といった日用品も含め全て押し込むことができた。
まだ学校では、午後最初の試験が始まったくらいの時間だ。
(このまま寮でだらだら過ごすのも時間がもったいないよな)
俺は学校をさぼり、街へ買い物に繰り出すことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます