第二十三話「眠れぬ夜」
午後の授業は魔術と治癒術であった。
俺は板書をノートに取りながら大人しく授業を聞く。
午前の授業と違い、前に立たせて解かせるといったこともなく助かった。
治癒術に関しては俺にとって未知の分野だったため非常に有意義な時間が過ごせた。
(パーティー内に
授業の合間の休憩時間になると、他クラスや他学年の生徒まで俺を一目見ようと訪れる生徒が後を絶たなかった。
朝から学校中で俺のことは話題になっていた。
もちろんクラスメイト達も俺の周りに休憩時間になると集まる。
朝は女生徒ばかりだったが、だんだんと男生徒の数も増えた。
いつまでもアニエスに頼るわけにはいかないので、諦めて質問にはにこやかに答えることにした。
表情筋が笑顔で固まりそうである。
なんとも疲れた俺にとっての学校一日目が終わった。
◇
学校からの帰り道、俺は食堂に寄っていく。
まだ食堂は開いている。
ここで食べてもよかったのだが……。
「アリスは料理もできるのよ!
私が今まで食べてきたどの料理よりもおいしいの」
「王女様がそこまで言う料理って……。
いいな、私も食べたい」
アニエスとエルサの会話である。
アニエスはふと思いついたように俺の顔を見る。
「私、今日もアリスが作ったシチューが食べたいな?
ダメ?」
「……いいですよ」
「エルサも食べに来たらいいわ!ついでに泊まっていきなさい」
「え、いいの!? 行く行く」
流れでお泊り会が開催されることになったのだ。
因みにアニエスのベッドは三人川の字になっても余裕で寝られる広さがある。
昨日はアニエスに抱き着かれていたため寝られなかったが、今日も寝られるのか今から不安だ。
そんな訳で、食材を貰いに来たのだ。
いつもの料理人のおじさんは厨房で忙しそうにしていたが、俺に気づき、用件を聞くと若い料理人に食材を準備させ、それを渡してくれた。
今更だが学校内での食堂は無料で利用できる。
頼めば食材も無料で貰える。
食材を貰うと、外で待ってくれていたアニエスとエルサが待っていてくれた。
「私が持つわよ」
アニエスが俺の持っている食材が入った袋を持つ。
「んじゃ、私は自分の寮から着替え持ってから行くね」
エルサとは一旦別れ俺達は寮に戻ってくる。
俺は応接間のソファーにダイブする。
「疲れたー」
今日は一日中色々な人に捕まった。
慣れない笑顔も振りまいていたので俺の精神疲労はピークに達していた。
アニエスが食材を冷蔵庫もどきにしまい、応接間に来る。
「でも怖い人はいなかったでしょ」
「そうですね」
女の子として行儀が悪いと怒られるかと思ったが、ソファーに寝転んだ俺をニコニコとアニエスは眺めている。
「アニエス様、今日は機嫌がいいですね」
発言した途端不機嫌になった。
「……アニエス姉さん、今日は機嫌がいいですね」
アニエスの機嫌が戻った。
「やっと、アリスが私のことをお姉ちゃんって呼んでくれたからね!」
「でも、血も繋がってない私が姉さんなんて呼んでたら不快な思いをする人もいません?
アニエス様はこの王国のお姫様ですし……」
今日は咄嗟にアニエスのことをアニエス姉さんと呼んでしまった。
王立学校には貴族出身の生徒が多いと聞く。
俺の知識では国の姫様であるアニエスに馴れ馴れしくしていると「姫様に無礼な」と言ってくる貴族もいると思うのだが。
そんな心配をよそに、アニエスは目をぱちぱちさせ、今度は頬を膨らませた。
可愛い。
「お ね え ち ゃ ん。
様付はダメ!
私が良いっていってるんだから、誰にも文句いわせないわよ!
こう見えても私は王女様だからね!
文句言うやつはお父様にいいつけてやるわ」
俺は苦笑しながら、アニエスをアニエス姉さんと呼ぶことにした。
「あ、でもできればアニエスお姉ちゃんって呼んでほしいかな」
「あ、アニエスお姉ちゃん」
それを聞いて、アニエスはにへらと笑う。
お姉ちゃん呼びは少し恥ずかしいのでやっぱりアニエス姉さんと呼ばせてもらおう……。
エルサが到着したので俺はシチューの料理を始めた。
アニエスは昨日おいしいおいしいと食べてくれたが、エルサの口にも合うか心配であった。
「おいしい!
アニエスの言った通り!
めちゃくちゃおいしいわ!」
「でしょ!」
エルサの口にも合ったようだ。
俺は安堵した。
◇
食事のあと三人でお風呂に入ることになった。
一人で入ろうと思っていたのだがアニエスとエルサに捕まえられた。
「エルサ、アリスは恥ずかしがり屋だから逃げようとするの!
捕らえて!」
「はい、姫様!」
料理の片付けが終わり、二階の自分の部屋に帰ろうとしてるところを待ち伏せされていた。
三人仲良くお風呂である。
「アニエスはいつも洗えるじゃない」
エルサの主張により、今日の髪洗い担当はエルサになった。
(一人で洗えるんだけどね……)
エルサの裸体をなるべく見ないように俺は目をつむっている。
この身体になって心臓がバクバクいう機会が多くなった。
(いつか心不全で死にそうだ)
「アリスちゃんの黒い髪は本当きれいだね。
さすが精霊様!」
「私はエルサ様の赤い髪も美しくて好きですよ」
「エルサでいいよ、様はいらない。
同級生なんだから!」
頭をごしごしとこすられ、洗い終わるとお湯で流される。
ついでにエルサが髪を後ろでまとめてくれる。
「はい、終わり!
さあお風呂入ろ」
「えっ……、わツ!」
ひょいっと俺はエルサに抱えられる。
(む、胸が背中にあたってる!!!!!)
「はい、姫様。
大事な妹様をお連れしましたよ」
「うむ、ご苦労」
エルサに抱かれたまま湯舟に入れられた。
「アニエスが溺愛するのもわかるわ」
「でしょ!あげないわよ!」
お風呂から上がると寝る支度をする。
「お二人の邪魔にならないように今日は一人で寝ます!」
主張してみたが、エルサにも俺の部屋を見られ、
「うーん、これは寝る部屋じゃないよ」
と苦笑された。
予想していたが、三人川の字で寝ることとなった。
もちろん俺が真ん中だ。
(俺が男とばれたらどうなるんだろう……)
両隣から穏やかな寝息が聞こえはじめる。
寮に着いたときは心地よい眠気があったのだが今はギンギンに脳が冴えていた。
(寝れるか!)
また一睡もできないまま朝が来た。
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