第326話


「私たちも・・・シーナと私が同じだったんです。

いえ。もっと酷かった。

私は庇われるだけで戦おうとしなかったから」


ルーナの告白にジョシュアたちは驚く。


「ルーナ・・・それは仕方がないわ。

私たちの村は巨大な魔獣に襲われた。

だから、ボス戦でそれを思い出して以降、通常の大きさの魔獣でも足がすくんでしまったんだもの」


「それは、ルーナもシーナも私と一緒。

魔獣に襲われて一緒に逃げ出した。

でも、私みたいにはならなかった。

私みたいに・・・『怖いから守ってもらおう』なんて2人は思わなかった。

ただ、勇敢にまえに向かっていった」


「私はただ、強くなって『今度こそ守りたかった』だけ。

強くなれば、戦うことも守ることも出来るって知ったから。

ご主人と師匠、師範から教わりました」


「私は・・・妹たちを守りたかった。

だから『戦わなかった』

ご主人様や師匠が強いから『守ってくれる』って甘えていた・・・エンテュースの時みたいに。

それがルーナひとりを戦わせるという非道な選択になっていたなんて、私はまったく思い至らなかった」


獣人3人娘の告白に全員の気持ちが重くなった。

ジョシュアとジョアンナもシーナと同じで「ヒナルクさんが守ってくれる」と甘えていたのだ。



「私たちはどうやら全員が揃いも揃って『愚か者』だったようですね」


大きなため息を吐いてロンドベルが告げた。


「はい。私たちは誰もがご主人と師匠に頼って甘えた考えを持っていました。

私たちは、自分の足で立って前へ進まなくてはいけないのです」


「そう。スゥの言う通りです。

私たちはご主人様に『進むべき道』を指し示して頂きました。

あとは、私たちが勇気を出して一歩前へ足を踏み出すだけです。

ご主人様も師匠も、かすことはしません。

私は『足を踏み外す直前』に、ご主人様の「何をしている」という伝言を聞いて我に返りました。

私は正気をなくした状態で、ルーナを連れて崖から落ちようとしていました。

だから言えます。

『自分の足で立って、今いる場所を見回して』って」


何度も道を踏み外し、その度に救い出されたシーナだからこそ『言える言葉』だった。



「ねえ。お願い。

私たちに戦い方だけでなくヒナルクさんが教えたことを私たちにも教えて、下さい」


「無知な私たちは何も知らない。

だから・・・だからこそ。

どんな小さなこともその場で注意して、小さなミスでも説教してください」


「「お願いします」」と言って、4人に深く頭を下げた。




このダンジョンの敵が弱いということもあり、ジョシュアとジョアンナの2人で戦うことにした。

左右に分かれ、自分たちの弱点を知るためだった。


「お二人は『気配察知』と『危険察知』をお使いですか?」


「いいえ」


「私も使っていないわ」


「では、移動だけでなく使ったまま戦ってみてください」


「・・・はい。わかりました」


スゥの言葉に頷く。

「なぜ?」「どうして?」とは聞かない。

実際にやってみて、体験することで身につけることにしたのだ。


「『なぜ』『どうして』と聞くのは、相手の言葉を信じていないからです。

自分で考えるクセを身につけなさい。

そして実際にやってみて、それでも分からなければ聞きなさい」


ロンドベルにそう指摘されたジョシュアたちは、自分たちは考えることもなく何でも聞くクセが身に染み付いている事実に気付いて驚いた。


ダンジョン1ヶ所だけではジョシュアとジョアンナが納得しなかった。

そのため、ダンジョンをクリアするとジュスタールに戻り、さくらに進捗しんちょく状況を報告して次に入るといいダンジョンと注意事項アドバイスを貰った。


さくらとハンドくんから見ても、ジョシュアとジョアンナは少しずつ良い方向に足を踏み出したのを確認していた。

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