第313話
今回も冒険者ギルドの上の宿泊施設で泊まることにしたのは、ジョシュアとジョアンナの姉妹が『持ち合わせが少ない』からだ。
荷物を奪われて無一文になってから、少しずつ魔物や魔獣を倒しては魔獣の肉やドロップアイテムを売り、テントなど必要な物を買い直している所だそうだ。
別にさくらたちは宿に泊まればいいのだろう。
しかし『空いてるなら泊まろう』となったのだ。
「オレらは宿でもギルドでも泊まれるが、商人たちは宿にしか泊まれないだろ?
だったらオレたちはギルドに泊まればいい。
まあ、部屋が空いていなければ宿を使うが、な」
さくらの言葉に誰も異議はない。
逆に、その言葉を聞いた他の冒険者たちは感心した。
銀板所持者は少しでも良い宿に泊まろうとする。
それが、『獣人と泊まれる宿』を求め、一番忌避されるギルドの宿を優先して使おうとする。
エンテュースの宿を『銀板が安心して泊まれる宿』にランクアップさせ、ユリティアの宿を『誠実な宿』と認めさせたヒナルクに、「宿に泊まってもらって箔を付けよう」と考える宿屋は多い。
しかし、以前までこの町にあった宿屋のように、不誠実な態度を見せれば廃業になる。
一度『宿経営許可証』を失うと、二度と許可は下りない。
大抵はランクダウンか営業停止とあわせて罰金刑を受ける。
その際、罰金が支払えずに店を手放すことがあったとしても許可証を失うことはない。
『宿経営許可証』は代々受け継がれていくが、『宿経営許可失効』も代々受け継がれていく。
たとえ、宿屋の人と結婚しても、宿屋を継ぐことは出来ない。
宿屋の亭主と結婚も出来ない。
何より、宿屋で働くことすら出来ないのだ。
『接客に不適格』の烙印を押されているのだ。
気の毒なのは『自分に覚えのない罪を子孫が受け継ぐ』ことだ。
・・・これだって、実際は『当事者たちが反省し罪を償う』ことで済む問題だ。
それをしないで罰を受けないため、子孫に引き継がれているだけだ。
神殿で『結ばれない2人』が神に祈った。
その時に『御先祖が罪を償わなかったせいだ』と知らされ、2人は共に罪を償った。
『宿経営許可証』はギルド発行であり、罪は『宿泊者の荷物の窃盗』で、罰は罰金だった。
罰金の踏み倒し。
それが『先祖の罪』だった。
2人は金貨300枚を20年かけて集めてギルドに渡した。
それにより罪を許された2人は・・・結婚はしなかった。
すでに周囲からは夫婦と認められてたからだ。
その2人の話が広がり、今まで避けていたギルドに問い合わせて『先祖の罪を償う』人々が増えた。
ギルドも改めて調べ直し・・・当事者たちが死んでいて代理で罪を償えない場合は金貨で支払わせた。
それ以降、罰を必ず受けるようになったが、今回の騒動の人たちは罪を償わずに逃げた。
しかし、彼らは逃げきれなかった。
『ハンドくん』がいるからだ。
『さくらが危害を受けたらどうするのです?
まとめて穴に投げ込んでおきます。
捕縛しないなら・・・
ハンドくんのいう『バラバラ』はギルドの解体だ。
しかし、さくらの邪魔になるなら『人体をバラバラ』にしかねなかった。
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