第307話


戦闘を終えて解体を終えると、シーナとルーナが広場全体に浄化クリーン魔法を掛けて回った。

いまでは直径100メートルほどの広さなら2人で3回。

計6回で十分浄化出来るようになった。

どんなことでも続ければ『熟練度』が上がって上達することを、ようやく2人も理解したようだ。


地面にじかで正座しているジョシュアとジョアンナ。

その前で静かな怒気を放っているスゥ。


さくらはその様子を見守りつつ、アームチェアに座って休憩中。


「浄化終わりました」


〖 ご苦労様でした。

では結界を張って休憩にします 〗


「ご主人さま・・・疲れた?」


「いや。途中で3人が交代してくれたからな」


そう。追加の戦闘は8回。

しかし5回目からスゥたち3人がさくらと交代して戦闘に入っていた。

3人は共闘ということで、ジョシュアたちの解体作業を手伝っていた。

レアの『解体のナイフ』を使っているため、一瞬で解体されていく。

ジョシュアたちはそのナイフを驚いて見ていた。


「話には聞いていたが見たことがなかった」


「普通にエンテュースの武器屋でも売ってたぞ」


「はい。ユリティアの冒険者ギルドでも売っていました」


4回目の戦闘を終えて、ハンドくんがひと刺しで解体していく姿を見て、さらに驚いていた。


4回目に現れたのは大量のハチ。

ただし。一体の大きさがソフトボールと同じだった。

光線レーザー銃で撃ち落とす。

光線から逃げられても、ハンドくんたちがハリセン・・・ではなくプラスチック製の『ハエ叩き』ではたき落としていた。


・・・ハエじゃないのに。


『あれは『ハエ叩き』ではありません』


・・・じゃあ、なあに?


『『ヨルク叩き』です』


ちゃう〜!

っていうか、プラスチック製だから痛いってー!


『大丈夫です。

ヨルクを叩く時は、ほとんどはハリセンです。

本当に悪いことをした時に使っているだけです。

繰り返されたら困るので『痛い思い』をしてもらうのですよ』


そっか。

じゃあ、いつもじゃないんだね。


さくらは知らない。

初めて『ヨルク叩き』が登場した『聖なる乙女たちの品評しなさだめ会』以降、臀部を叩く時に使われていることを。

そして・・・『神叩き』も存在することを。







「何故お二人は作戦が守れなかったのですか?」


スゥの責める声に、ジョシュアとジョアンナは正座して俯いている。

言えるはずがない。

『ヒナルクに任せてもロクに戦えないだろう』なんて見下していたなんて・・・


「見下していたんでしょう?

『ご主人様が魔物と戦えるわけがない』って」


シーナの指摘にビクリと身体を震わす2人。

それだけで『シーナの言葉が正しい』と理解したスゥが大きく息を吐いた。


「何故『見たことがない』のに見下していたの?

自惚うぬぼれ?

ご主人は私たちに守られているだけだって。

そう思っていたの?」


さくらにはすでに休憩してもらっている。

ハンドくんと共に300体以上の魔物を倒して貰ったのだ。


〖 人間は瘴気に弱い 〗


それは以前、師匠に注意されたこと。

そのため結界の中に結界を張ってもらい、休んでもらっているのだ。

その姿はスゥたちには見えない。

スゥが一任されたのだ。

だからこそ『二度と繰り返さない』ように厳しく注意をするのだ。


シーナとルーナの時に、自分以上にご主人と師匠も心を痛めた。

二度と繰り返さない。

その思いは、シーナとルーナも同じだ。


二度目の別荘から帰って来た時に、弱って眠り続けるご主人の姿に師匠の言葉が突き刺さった。


〖 貴女たちが平気でも、ご主人も平気だと思わないように 〗


分かったつもりでいた。

でも、別荘で眠った翌日に目を覚さなかったご主人。

次の日も・・・

そんなに弱っていたなんて気付かなかった。

そして、起きても長くは起きていられなかったご主人。

その姿を見て、私たちは別荘から帰って誓い合った。


『二度とご主人に負担をかけない』


別荘でシーナが暴走した時のこと。

当時のことはよく覚えていないが、ただシーナは『ご主人様に失礼なことをした』と後悔していた。

だから、誓い合った。


『ご主人を守るために言動を改める』


うやまう気持ちがあれば、決して見下すことはない。


シーナは、生命をかけてご主人を守るために。

ルーナは、二度とご主人に迷惑をかけないために。

ご主人が出なくてもいいように強くなると。


戻ってから変わってきた。


そして・・・目の前にいるのは、『あの頃』のまま変わらずに生きたシーナとルーナの『数年後』のようだった。

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