第264話
さくらが無人島に向かうと、早朝から鍛錬を続けていた4人はちょうど休憩しているところだった。
「どうした?さくら。
・・・ああ。アイツらは『土地の下見』の日だったか」
セルヴァンが自身に
「土地の下見?」
「そうだ。長年使っていなかった広大な土地を使う計画が上がってな。
あの2人・・・特にヨルクは植物に詳しいから、ジタンの手伝いに向かったんだ」
さくらの御料牧場を作ることは秘密にされている。
『さくらを驚かせたい』というジタン、ヨルク、ヒナリの希望だからだ。
それに、もし失敗して瘴気が含まれた食料が出来てしまったら、さくらの口に入れることは出来ない。
動物に瘴気が含まれてしまったら、この世界のように魔獣化してしまうかもしれない。
それを知って悲しむのはさくらだ。
だからこそ、創造神が『安全だ』と太鼓判を貰うまでは秘密にされる。
・・・そのことに、誰も異論はなかった。
「あのね。今朝はヨルクが朝ご飯作ってくれたんだよ」
「そうか。よかったな」
『よかった』
この言葉には二種類ある。
表面通り、さくらに『ヨルクのごはんが食べられて良かったな』というのと、ヨルクに『頑張った努力が報われたな』というものだ。
ヨルクは以前さくらに「ソースがハンドくんの手作りと味が違う」と言われた。
ヨルクは「これくらい変わらないだろう」と甘く見たのだ。
しかし、木の実を炒っていないことをズバリ指摘された。
その時、ヨルクは『料理を失敗したのか』と落ち込んだ。
そして手を抜いた料理をさくらに食べさせてしまったことを後悔した。
しかし、風味が落ちていないことを誉めてから、「これがヨルクの味なんだね」と笑ったさくらにヨルクの心は救われた。
それからハンドくんとヒナリ、ヨルクの味を纏めて『家族の味』と言われた。
『家族』
この言葉はヨルクにとって何よりも欲しくて、でも簡単に手に入らないもの。
それを手に入れることが出来たことを喜び、さらにさくらのために自身で出来ることを頑張っている。
それは料理だったり、瘴気の研究だったり。
そしてその中に『御料牧場の下見』が含まれていた。
そして、ジタンと共に『土壌の改善・改良』に向けて長く続けていく『課題のひとつ』となった。
「ハンドく〜ん。あそぼ〜」
〖 はい。どうぞ 〗
さくらの言葉にハンドくんが取り出したのは『プラスチック製の棒』だった。
〖 雰囲気を出すために薄暗くしますか 〗
「する〜!」
さくらの言葉にあわせて無人島が薄闇に覆われる。
「ハンドくん。強化済み?」
〖 はい。ヨルクを全力で叩いても壊れません。
ヨルクも。『光る
さりげなくヨルクを
しかし、ハンドくんは遠回しに『叩いても壊れないヨルクは頑丈』と誉めたつもりだった。
それにセルヴァンは気付き、ヨルクの苦労と努力を思い返し苦笑していた。
さくらとハンドくんの『チャンバラ』は凄まじかった。
薄闇にしたため、『光る
軽く振り回される剣に『無駄な動き』はない。
ハンドくんに剣技を教えたのはセルヴァンだ。
それを完全に身につけ、さくらがそれを完全に受け継いでいる。
それは、目を輝かせて見ているシーナたち3人にも、まだ未熟な形だが引き継がれている。
ハンドくんたちが努力で剣技を身につけたことをセルヴァンは知っている。
決してさくらにその努力を見せることも自慢することもない。
その点では、隠れて日本語を勉強し続けて、今では『専門用語』以外の読み書きが出来るようになり、『さくらの世界の知識』を身につけたヨルクも同様だ。
創造神は『二人はよく似ている』と言っていた。
たしかに『さくらのためなら努力を
ハンドくんの方が、さくらを『よく知っている』ため、ヨルクより数歩先を進んでいるだけだ。
それでもヨルクは努力を怠らない。
だからこそ、ハンドくんはヨルクを『さくらをめぐるライバルであり同士』と認めている。
「さくら」
まだ打ち合いをしているさくらに声を掛けながら近付くと、スッと打ち合いが止まる。
「セルヴァン。なあに〜?」
「そろそろ休憩しなさい。ハンドくんも」
〖 そうですね。
私たちはスゥたちの休憩時間を借りて遊んでいただけですから。
『鍛錬の邪魔はしない』って約束でしたね 〗
「あの子たちは十分休んだからな。
昼ごはんまで、あの子たちにも鍛錬させてやらないとな」
さくらを抱き上げると、ハンドくんがさくらの持つ『光る
遊びの範疇内のため、汗は多少滲む程度しか出ていない。
それをスッキリさせるためと、身体の熱と精神の
セルヴァンがウッドチェアに座り、一定のリズムでさくらの身体を優しく叩く。
ハンドくんもさくらの頭を優しく撫でる。
セルヴァンがウッドチェアに座った時点で閉じていたさくらから、静かな寝息が聞こえるのにそれほど時間はかからなかった。
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