第260話


昨日一日休んだからか、スゥたち3人の動きは見違えるほど軽くなっていた。


「やっぱり、私たちは瘴気の影響を受けていたのですね」


「私やルーナだけでなく、なんの兆候も見せなかったスゥまで瘴気が影響していたなんて・・・」


〖 そう簡単に気付けるなら、エンテュースやユリティアの住人も気付けるでしょうね。

いえ。『気付けない』から、様々な犯罪が横行おうこうしているのです。

ご主人はともかく、あなたたちも『正常に近い思考を保っている』からこそ、悪事に巻き込まれます 〗


「あの時・・・私たちをご主人が救ってくださった時、他には誰も助けてくれませんでした」


〖 当たり前です。

あの町では、あの男を『銀板所持者』と思い込まされていました。

助けたところで、次に『奴隷として広場に引き出される』のは自分になるだけです。

自分の生命をかけてまで『見ず知らずの他人』を助けるより、『見守る方がラク』だったんです。

分かりますか?『見守る』んです。

あの『バカげた儀式』が無事に終わって『気の毒な奴隷犠牲者』が殺されるようにね。

口で嫌がっていても、『手を下す殺すのは自分ではない』です。

『自分たちに罪はない』

『イヤでも銀板所持者に従うしかなかった』

あの場に集まっていた連中は、そう言い逃れ出来る『便利な立場』を悪用して楽しんでいました 〗


ハンドくんの指摘に、スゥたちは目を見開いて驚く。


「でも・・・私たちは『助けたくても助けられなかった』って警備隊の人たちから言われました。

謝罪もされました。

神殿でも謝罪されました」


〖 では、あなたたちに謝罪した『町の人』はいましたか? 〗


ハンドくんの言葉に顔を見合わせた3人は首を横に振る。


〖 ご主人はそのことに気付いていましたよ。

ですから『銀板所持者』だと明かして警備隊に命じて動いてもらったのです。

あの、自分の魔法生物わたしたちにすら命じず『お願い』をするご主人ですよ。

そんな、人に命じて動かすなんてしないご主人が、あなたたちを確実に助けるため『命じる側』に立ったのです。

・・・それは町の人たちに『言い訳をさせないため』です。

本当に助ける気があれば、王都にでも訴えることは出来たハズです。

銀板所持者の悪行を取り締まる部署が各地にあります。

それをしなかった時点で、あの広場にいた者たちも『同罪』です。

・・・それが分かっているからこそ、彼らは謝罪出来なかったのです。

それでも、悲劇の犠牲者が奴隷だったら、彼らの心は少しは軽くなったでしょう。

ですが、現実には『奴隷だと思っていた犠牲者』はあなたたちと同じ『よそから連れて来られた』だけだった。

殺される無実の人たちを救わず見殺しにした。

その自責の念から、彼らは逃れることは出来ません。

ご主人も、あなたたちも、彼らを叱責することなく町を離れました。

謝罪をして心を軽くすることは出来ません。

この先、あなたたちが名を上げれば、彼らは自身の犯した罪から逃げられず、向き合うことになります 〗


「・・・私たちのせいで、あの人たちは苦しみ続けるの?」


「ルーナ。それは違う。

罪と向き合い、罪を償う気が少しでもある人なら苦しまない。

ただ、師匠の言うとおり『自分は悪くない』と言って逃げ続ける人には、『自分の罪と向き合って反省しろ』と責めることになるだけ」


「たくさんの人が『見殺しにされた』以上、それは『仕方がない』と思う。

『助けられなかった』にしろ、ひとこと「悪かった」という謝罪を言わなかった時点で『悪いと思っていない』んだと思う。

ユリティアで言ったよね。

「従者が主人に簡単に殺された」って。

・・・『従者や奴隷』って、私たちが考えているよりずっと軽い生命なんだと思う。

だから、私たちは強くならなくてはいけない。

『私たちの生命が簡単に奪われない』ように」


シーナの言葉にスゥとルーナが頷く。

いつまでも、主人に庇われていられない。

自分の足で立ち、決して負けない強さを。

あの時みたいに、不条理に生命を奪われるようなことにならないように。

そして・・・不条理に奪われそうになった生命を救えるように。

そのためには『立場』も必要になってくる。

たとえ銀板にならなくても、強くなって『周囲から認められる人』になればいい。


3人は改めて誓い合った。

不条理で泣く人を、ひとりでも多く救えるようになる、と。

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