第229話


私たちがボスを倒したことは、ダンジョンの入り口が封鎖されたことで気付いたのだろう。

特に何もせず、ダラダラとムダな時間を潰していたシーナとルーナは、ダンジョンから戻った私たち・・・特にスゥに対して驚いていた。

スゥのダンジョン攻略後のレベルは84。

レベル32のシーナの約2.6倍。

ルーナのレベル27の約3倍。

大きく引き離された現実にショックを受けていた。


〖 この先に開けた場所があります。

話はそこでしましょう 〗


「はい」


ハンドくんの提案に、返事をしたのはスゥだけだった。



徒歩で20分。そこにあったのは手入れされた芝生のように丈の短い草が一面に広がったグラウンドだった。

ハンドくんが魔石で結界を張り、ウッドテーブルを取り出す。

ウッドチェアにさくらが座ると、次いでルーナとシーナが腰掛けようとしたが、それをスゥが腕を掴んで止める。


「スゥ?!」


「なんでー?」


「・・・2人はすでに『パーティメンバーではない』し『従者ではない』。

ご主人を裏切って主従関係をって、『ご主人と対等な立場』になったつもりですか」


冷たく、そして僅かに怒気を含めた言い方のスゥだったが、そのおかげで冷静になったのか。

驚きの表情からだんだん青褪めていった。

さくらにいたっては、ハンドくんの結界に覆われて怒気から守られているが声は届いていた。

ハンドくんの結界は『声を通す』。

聞かれたくない場合は『さくらの耳を塞ぐ』。

元々、さくらの耳を塞ぐことで発動させていた『ハンドくんの結界』だったが、今では強固な結界となっている。

そして、他の結界と違い『怒気を完全に防ぐ』のと、『姿は見えるし声も届く』という特別なものだ。

これはさくらの『思い通りの魔法が使える』のを、『さくらの魔法生物』であるハンドくんでも使えるからだ。


さくらは、スゥの口調がハンドくんたちと似ているのを心の中で笑っていた。

今は自分たちのステータスを確認しているのだろう。

そして『従者失格』の烙印がすでに押されて取り消せなくなったのも確認したか、顔色が青から真っ白になっていった。

ついでに頭の中も真っ白になったのか。

二人は「そんな・・・」「なんで?」と呟いて、そのまま固まっていた。

スゥはそんな幼馴染みたちを冷たく見ていた。



ハンドくん。スゥの様子が・・・


『決別の強い意志がありますね。

・・・ああ。

すでにスゥの称号が『護衛』にランクアップしています。

それと、スゥが怒っているのは『さくらに謝罪していない』からでしょう』


・・・私たちは口出ししない方がいいかな?


『ここはスゥに任せましょう。

それにしても、ひと言さくらに謝罪すればウッドテーブルの周辺に結界を張って『ティータイム』に入れるのですけどねぇ』


・・・さっき、あの2人が座ったら『ぶっ飛ばす』気だったでしょ?


『もちろんです。

スゥが言った通り、最早パーティメンバーではありませんからね。

従者でもなくなった『無関係』の分際で、許可なく『同席しよう』など図々しい』


・・・スゥが止めなかったら、ハンドくんたちの『袋叩き』が始まってたね〜。


『まだ諦めていませんよ。

すべてが『決定』した後に、実行するつもりですから』


あ~あ。

『刑の執行』が伸びただけか。


『当たり前です。

『従者』という初歩の契約をどう見ていたか。

結局、2人は契約を『甘く見ていた』訳です。

その結果が『従者失格』ということでしょう』



私たちの会話の最中も、シーナとルーナは『我が身に起きたこと』を嘆いている。


「なんで・・・」


「どうして・・・」


「シーナもルーナも。

師匠にダンジョンの入り口へ戻されたあと、なぜ戻らなかった?」


「それは『いらない』と言われて・・・」


「契約に『従者はご主人から24時間以上離れてはいけない』という約束がある。

ご主人が私に話してくれた『気配察知』と『危険察知』を2人も聞いたのでしょう?

だったら、その2つの練習のために入り口に戻されたってなぜ分からなかったの?

常時使う練習のために『はじめ』に戻されたって・・・。

あの時、討伐が済んで魔獣がいない『安全な道』を走ってくるだけだから、朝には広場に着いていたのに。

私も、ご主人も師匠も・・・追いかけてくるって信じて待ってたのに」


うーん・・・スゥの感情が小爆発し始めたね。


『連鎖させそうですね』


一度、大爆発させる?


『・・・そうですね。

シコリを残すと、後々危険を招く結果になりますから、

禍根を残すより、断つ方が良いでしょう』


スゥには頑張ってもらったから、ここらで爆発してもらおうね。




スゥのいかりに触れてもまだ、さくらへの謝罪がないシーナとルーナ。

それがスゥには許せなかった。

でも、『一から百まで教える』のは2人のためにならない。

2人に『考えるチカラ』が身につかないと、『言われないと動かない』ようになってしまうからだ。

それをさくら主人ハンドくん師匠から教わった。

・・・それが、これほど我慢が必要な事だとは思わなかった。

『人を導く』ということは、相手が答えを出すのをずっと待たなくてはならない。

それが正解アタリならいいが、不正解ハズレなら正解に導かなくではならない。

ヒトはそれが出来ずに口を出すことが多い。

・・・だからこそ、一人前に『育たない』のだと師匠は教えてくれた。


私は、この2人を前にして、何時まで我慢できるだろう。

言いたいことがある。

何故ご主人に謝罪して許しを請う努力をしないのか。

ご主人の結界はまだ張られていない。

2人が自主的に謝罪してくるのを待っているのだ。

でも・・・もうムリ。限界です。



「師匠。ご主人に結界を張って、休んでもらってもいいでしょうか?」


〖 ご主人から伝言です。

『今日はここに泊まる。

だから時間はいくらでもある。

気にせず、自分の思いをぶつけなさい』

以上です 〗


「はい。分かりました。ありがとうございます」


ご主人は・・・きっと師匠も。

私の『抱えている感情』に気付いているのでしょう。

気付くと、テーブルやイスと共に、ご主人の姿が見えなくなっていた。



「シーナ。ルーナ。

2人はダンジョンから追い出されて『何をしていた』の?」


「何って・・・」


「ただ、誰かが迎えに来るのを待ってた?」


スゥの言葉に何も言えず俯く私たち。

その通りだ。ダンジョンの外に出されても、結界が張られていたから『誰かが迎えに来てくれる』と信じた。

ううん。違う。『信じていたかった』。

・・・でも、来なかった。

ご主人様も。師匠も。スゥも。


気付いたら武器も鉄製から木製に変わっていた。

結界も解かれていた。

・・・自分たちが、ご主人様と師匠に守られていたことを初めて実感した。


木々やくさむらそよぐ風にすら恐怖を感じた。

怖くて、その場から動くことが出来なかった。

ダンジョンの中も、ご主人と師匠がいなければ入ることも出来なかった。

しかし、スゥの言う通りだ。

魔物や魔獣を倒してきたのだから、すぐに瘴気が溜まって魔物や魔獣が生まれるはずがなかった。

ご主人様が、スゥに向けて説明していたことも、ちゃんと聞いていた。

今になれば、何故ダンジョンの入り口に戻されたのか、何故『結界を張ってくれていたのか』が分かったのに・・・

すぐに動けば、魔物や魔獣が現れたとしても、結界で守られていたのに。


「ご主人さま〜。ごめんなさ〜い」


ルーナが泣きながら謝罪を繰り返している。

ルーナは『怒られている理由』が分かっているのだろうか。

ただ、『ご主人様に見捨てられた』と思い、謝っているだけではないだろうか?

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