第223話
昨夕、ダンジョンの外に『捨てた』シーナとルーナは、朝になっても戻って来なかった。
さらなる強さを求めるスゥは、ハンドくんに言われた通り、2人を信じて大人しく眠っていたそうだ。
この先どうしたいのかをスゥに確認した。
2人を心配しているのは十分分かっている。
だから、此処で待ちたいか。迎えに行きたいか。先に進みたいか。
「ご主人を守る従者は私一人だから、ご主人と一緒にいたい。
此処で待っているより、ご主人と先に進み、『魔獣相手に合わせた戦い方』を教えてもらいたいです」
昨日からスゥは自分のことを『スゥ』から『私』に変わっている。
〖 責任感が芽生え始めたからでしょう。
ただ甘えるだけの『子ども』から、目標と信念を持って一歩前進したのです。
スゥ担当のハンドくんたちは、これからが正念場ですね。
これまでの『鍛錬』はもちろん、『読み書き』から『計算』。
そして『初期の魔法』も始めましょう 〗
「魔法?!私でも魔法が使えるようになる?」
「スゥ。
〖 日々練習している『気配察知』や『危険察知』も、『魔法のひとつ』です 〗
さくらとハンドくんに言われて、初めて『当たり前に魔法を使っていた』ことに気付いたようだ。
それより、スゥは『攻撃魔法』と『防御魔法』だけが『魔法』だと思っていたようだ。
その事実に気付いたスゥは、恥ずかしそうに俯いた。
「スゥ。知らない事は恥ではない。
担当のハンドくんから、教わればいい。
恥ずべきことは、『知らない事を知ってるフリ』することだ」
〖 勘違いして覚えていることもあります。
『間違える』ことも恥ではありません。
間違いを指摘されても頑なに認めようとしないことが恥なのです 〗
「はい。分かりました。お願いします」
そう言うと、スゥは直角90度のお辞儀をした。
朝食は、蒸し鶏のスープとバゲット。ゆで卵のサラダとコーヒーとフルーツヨーグルト。
さくらとスゥが昨夕に作った魔獣肉のポトフの残りに手を付けなかったのは、スゥが『誰のため』に作ったのか気付いていたからだ。
「スゥ。準備が出来次第、出発するぞ」
「はい!」
スゥは自分が使った寝袋やテントを、担当のハンドくんに助けてもらいながら手際よく片付けていった。
うーん・・・。
夜中にこっそり、2人を迎えに行くと思ってたんだけどなー。
だから別々のテントで寝たんだけど。
『それでは、あの2人のためにならない。
これからどうするのか。
それは自分自身で考えて選ばせないと、本人のためになりません。
それを分かった上で『迎えに行きたい』なら行ってきなさい。
そう伝えました』
それで『残った』んだね。
『ルーナは特に、スゥに対して『やっかみ』の感情を抱きはじめています。
今は、スゥが迎えに行っても『素直に感謝が出来ない』でしょう』
・・・で?あの2人はどうしてるの?
『時間が停止していますね』
このままダンジョンの入り口で、私たちが出てくるのを待ってるつもりなのかな?
それとも追いかけてくる?
『今はなんとも』
現時点で、スゥのレベルは57。
このまま進めば、今日中に60を突破する。
2人が追いつかなければ、夕方には60台中盤まで上がるだろう。
ちなみにシーナはレベル32。
ルーナに至ってはレベル27だ。
それも2人の、特にルーナのレベルは、完全にスゥの討伐の『おこぼれ』だ。
傷付けるだけで僅かにもらえる経験値。
魔獣を倒せば、パーティメンバーなら均等に貰える。
トドメを刺したものには、その魔獣から得る経験値の『3分の1』を貰える。
その残り3分の2から『分配』されるのだ。
『此処は初期のダンジョンと同じ魔獣が現れていますが、レベルは大きく違いますからね』
初期ダンジョンの魔獣はHP300前後。
でも、このダンジョンの魔獣は最低でもHP1,000は下らない。
初期ダンジョンのボスとほぼ『同じ強さ』だ。
そして『敵のHP=経験値』だ。
ちなみに正数以下は切り上げ。
例えば、魔獣のHPが1,000とする。
トドメを刺せば、経験値は340ほど貰える。
それに追加して、140近くの経験値が分配される。
それは約700の経験値を『五等分』するから。
そのため、魔獣討伐で貰える経験値が140。
でもトドメを刺したら480。
別にスゥだけがトドメを刺している訳ではない。
ただ、ルーナは一撃が弱いため魔獣の
そのため、魔獣にトドメを刺す役割がスゥに回ってくるのだ。
・・・せめて、スゥみたいに『気配察知』と『危険察知』を使い続けてくれれば。
魔獣を察知すれば、それだけで経験値が貰える。
戦闘中なら、『攻撃態勢に入った』と察知すれば1回で経験値を30も貰える。
何度も攻撃態勢に入れば、その都度貰えるのだ。
『言っても聞かないから、レベルが低いままなんです。
素直に聞いているスゥは、それだけですでに経験値を二万近く追加しています』
寝ながら使ってたし。
『別に起きている時だけでも使っていれば、シーナとルーナはあとレベル10は上がっていたでしょう。
ところで、さくら。
あの2人はどうしますか?』
そうだね。
一緒にいたいと言うなら、とりあえず『荷物持ち』確定かな?
スゥとのレベル差に不平を言ったり不満を口にしたら・・・ハンドくんに任すわ。
レベル差を埋めるために、連日連夜、回復薬使いまくって休みなく『鍛錬』させるなり、見捨てるなり自由にして。
努力とか何もしないで文句だけ
それより、このダンジョンをクリアしたら、スゥは『従者』から『護衛』にランクアップね。
『分かりました。
・・・あの2人は、このまま動かない可能性もあります。
『見捨てる気がある』と分からせるため、彼女たちに張っていた結界を解除します。
そしてパーティからの一時解除。
パーティに何も貢献しない2人に、スゥが一人で頑張って得た経験値を山分けしてレベルアップさせる必要はありません。
武器も、町で装備させていた『木製武器』と交換しましょう。
パーティから外れた2人に『鉄製武器』を与えておく必要はありません』
うん。動かない理由が『結界で守られている』のと『パーティに登録されている』だったら慌てるだろうね。
それに『何もしないけど経験値は貰いましょうキャンペーン』は、ウチのパーティでは開催していません。
「ご主人。この先に敵が隠れています」
「何体いるか分かる?」
「1体。ご主人。先制攻撃してもいいですか?」
「まだダメ。
敵はなに?ウサギ?ベア?ウルフ?
まずは、相手をちゃんと把握しなさい」
さくらの注意にスゥは「すみません」と謝り、ジッと『壁の向こう』を見る。
「『丸いとり』です。高さ80センチ」
〖 あれは『コカトリスの雛』ですね 〗
「ってことは、近くに『親がいる』な」
さくらとハンドくんの会話に、スゥは『気配察知』に集中する。
「いました!この先の広場に2メートルの『大きなとり』がいます」
「よし。可能なら首を一閃で落としなさい。
雛が少しでも鳴き声をあげれば、親が駆けつける。
親鳥は『凶暴』だからね。
その時はそのまま
「はい」
スゥは短剣を手にすると、大きく呼吸を繰り返してから「行きます」とひと言残して『壁の向こう』へ飛び込んで行きました。
すぐに『トスン』という音がしたものの、雛の鳴き声は聞こえてこなかった。
『一撃で倒したようです』
じゃあ、『解体のナイフ』を貸してあげて。
スゥひとりでは、解体に時間が掛かるからね。
『これからは、あの『荷物持ち』候補の2人の仕事にしましょう。
解体作業でも1体50の経験値が貰えます』
「わっ!刺しただけなのに・・・」
ああ。あれは驚くよね。
一刺しすれば解体が完了しちゃうんだもん。
さくらは探検初日の『魔獣日帰り旅館『雑魚寝の間』へいらっしゃ〜い』で、歓迎のためにやってきた150体の魔獣の死骸を解体するシーナたちのフォローのために、30体ほどザーニから貰った『解体のナイフ』で刺して回ったのだ。
「ご主人!このナイフ、すごいです!」
「貸すのは今だけね。
スゥは『解体技術』を上げる必要があるから」
「はい!」
ナイフをさくらに返しながら、スゥはさくらへの信頼度をますます上げていた。
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