第179話
翌日の午前に到着予定だった奴隷商人は予定より早く町に到着した。
奴隷を乗せていたのと、馬に乗って迎えに行った警備隊員が『転移石』を使って城門前まで転移したのだ。
町に到着した奴隷商人の『証言』を聞いた警備隊副隊長が、『ヒナルク』が泊まっている宿『銀馬亭』を訪れた時には、陽は大きく傾いて周囲を赤く染めていた。
『青髪の少年』がヒナルクだと思っていた副隊長は、商人が会ったという場所から離れているこの町にはいないと思っていた少年がカウンターで夕食を食べているのを見て内心驚いた。
それでも副隊長は冷静さを保ち、奴隷商人が無事に町へ到着したこと。
明日の朝には少女たちの首輪が外され、その後は取り調べがはじまることを伝えた。
「なあ。オレは詳しくないんだけどさ・・・。『隷属の首輪』を着けられても、あの少女たちみたいに『自我』があるって『普通』なんか?」
その問いかけに、副隊長は頭から冷水を
それこそ『ありえない』のだ。
先日、集団で捕まった子供たちも、泣き叫んでいたのが『隷属の首輪』をはめられると同時にすべての感情を無くしたように黙り、商人に命じられたまま自ら専用馬車に乗り込んでいった。
会話もない。
何か命じられたときに「はい」か「はい。ご主人様」と返事をするだけだ。
それは、いま商人の『専用馬車』の中で大人しくしている『極悪人』が証明している。
「ご指摘ありがとうございます。改めて調査させて頂きます」
副隊長は頭を深く下げて出て行った。
そして朝を待たずに奴隷商人が『隷属の首輪』を外そうとして・・・失敗したのだった。
「ハア?『失敗』した?」
「あ、あの・・・『失敗』ではなく『正規の方法』では開けられなかったと言いましょうか・・・」
翌朝、顔を出した警備隊の詰所で『少女たちの首輪が外せなかったこと』を知った。
「なあ。一度その首輪を見せてもらってもいいか?」
『隷属の首輪でない』のなら、さくらが『カギ』に触れるだけで外せる可能性がある。
『構造』が分かれば、同じような首輪が流通したとしても『何とかなる』だろう。
副隊長も何の手立てもなく困っていたのだ。
今まで『目の前の少年』に何度も助けられてきた。
恥を
少しでも何か手掛かりでも見つかれば、あの少女たちを助けられる。
いつの間にか『犯罪被害者』である少女たちを助ける方が、自分たちの『威厳』より重要になっていた。
副隊長に案内されて、町の中央からやや北にある神殿に初めて足を踏み入れた。
エルハイゼン国では『神殿』なんて用はなかったからね。
『神なんて呼ばなくてもリビングに
・・・ハンドくん。なんか言葉に『トゲ』があるよ?
『気のせいです』
ハンドくんは『神さま』きらい?
『いいえ。中には『尻を叩かないと仕事をしない』神々がいますから』
・・・だれだろ?
《
ハックション!
くしゃん!
「あら?お二人ともお風邪ですか?」
「
「さくらのいる大陸は一年中『温暖』で過ごしやすいみたいだな」
「・・・行きたいけど『ハンドくん』がねぇ」
「あの『鋼鉄のハリセン』は受けたくないですわ」
「そういえば・・・さくらがここにいた頃はよくハリセンで叩かれてましたね」
「・・・・・・思い出させないで下さい」
「同じく」
ねえ。ハンドくん。
此処にも『天罰を受けた状態で生まれて保護されている人』っているのかな?
『いますよ。地下に30人ほど』
・・・結構いっぱいいるんだ。
『近隣の村で生まれた人も此処に集められますから』
「どうぞ。
前を歩いていた副隊長が目の前にある部屋の扉をノックする。
中から警備隊員が扉を開けてくれた。
そして副隊長と一緒にいるさくらを見て無言で敬礼する。
そんな警備隊員にペコリと頭を下げて室内に入る。
部屋の奥、ベッドとベッドの隙間に少女たち3人が怯えるように固まって座っていた。
「ずっと『あの状態』なんです」
「いつから?」
「・・・昨夜。首輪が外せなかった後からです」
そりゃあ仕方がないだろうな。
そう呟いたさくらに副隊長は驚く。
『首輪を外してもらえる』という希望が打ち砕かれたのだ。
誰も信じられなくなっても仕方がない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。