第151話
さくらの言葉に周囲は「この世界に『空気魔法』はないぞ」と思ったが、さくらがマグカップを両手で持ち『魔力を流し込む』と、マグカップの中の紅茶から湯気が出始めた。
それをハンドくんが『飲むときに火傷をしますよ』と手を
『アイテムボックスの『保温機能』を魔法で使えるように考えてみましょう』
『ペットボトルに『保温機能』をつけても良いでしょうね』
ハンドくんがさくらの頭を撫でると、さくらは頷いて適温になったマグカップの紅茶を飲みだす。
「さくら様。先ほどの魔法は?」
ジタンがさくらに尋ねると「紅茶の中に含まれている空気を振動させて温度を上げてみたの」と何でもないように答える。
空気を振動させたら温度を上げられるか試したら出来たとのこと。
科学の知識に疎いさくらは分かっていないが、これは『電子レンジ』の仕組みと同じだ。
それを『なんとなく』で魔法として生み出したのだった。
それを聞いて、ヨルクとヒナリ、そしてジタンまで魔法を試そうとしたのは言うまでもない。
もちろん直後にハンドくんに『失敗して暴発したらどうする気ですか!』と叱られてハリセンを受けた。
ちなみにセルヴァンとドリトスが後で試してみたところ無詠唱で使えたのだった。
「構造が分かれば無詠唱でも魔法が使えるんだよ」というさくらの話は本当だった。
さくらはジタンから、今まで『王城』だったこの建物が『神の館』と名を変えて、主にさくらや『世話役』の4人、そして時々ジタンが過ごすことになったことを聞いて驚いた。
此処へは他の誰も入ることは出来ない『神聖な場所』になったのだ。
温室や庭園も『神の館』同様『神聖な場所』となり、『神の結界』が張られて誰も入ることが出来ないのだ。
その結果、神々もここで自由に過ごせるようになった。
そのために『誰もいない』のだ。
ちなみに『親衛隊』は神の結界の外で警備をする。
外からは建物は見えるが『中の様子』は見えない。
逆に、中からは『外の風景や人々』が見えるが、結界の近くにいる人や声は届かない。
いま神々が不在なのは『別の理由』があるが、その事をさくらを含めて誰も知らなかった。
頭から『もこもこ』に完全防寒したさくらは、コートだけ着用したヨルクやヒナリと一緒に庭へと出る。
ヨルクたち翼族の羽根は衣服を通過する。
そのため背中に穴を開ける必要がないらしい。
空を見上げると、どんよりと曇った雲から真っ白な雪が降ってくる。
「あ~」
空に向かって口を開くさくらの鼻や頬に雪は付くが、口には入らない。
そんなさくらの様子をヨルクとヒナリは笑いながら見守っていた。
自分たちも小さい頃はよくやっていたのだ。
しかし『成功』したことは一度もなかった。
スッとハンドくんたちがさくらの顔を支える。
するとさくらの口に雪がひとひら入った。
その瞬間に目を丸くしたさくらは「やったー!」とピョンピョン飛び跳ねて大喜びする。
その様子に「どうした?」「何かあったのかね?」と部屋の中にいた3人も出てくる。
『『ひとひらの魔法』です』
『『叶えたい願い』を思い浮かべて、空から降る雪を口に含むことができると『願いが叶う』と言い伝えられています』
いまだ飛びはねて喜ぶさくらに代わり、ハンドくんが説明する。
「さくら。いったい何を『願った』のかね?」
ドリトスに聞かれて、さくらは寒さと成功した興奮で頬を染めながら嬉しそうに笑う。
「あのね。『此処にいるみんなが『ずーっと一緒』にいられますように』って!」
さくらの言葉に全員が目を丸くして驚いた。
そんな中でさくらはセルヴァンに向けて駆け寄る。
セルヴァンは
そんなさくらを抱きしめて抱え上げる。
さくらはセルヴァンの胸に顔を
そんな2人の周りをドリトスたちは囲む。
そこだけ空から『ひとすじの柔らかな光』が差し込んでいた。
その光景をたくさんの人々が目撃した。
会話は聞こえないが、結界内の様子を見ることが出来ていたのだ。
『神の館』に感謝した神たちが、庭にいる彼らの様子を特別に見せていたのだ。
その様子はセルヴァンの子供たちも見ていた。
父の嬉しそうな表情。
幼馴染みの優しい笑顔。
ドリトス様の慈しみの表情。
ジタン様の恥ずかしそうな笑顔。
そして膝をついた父に飛びつき胸に顔を埋めて甘えていた『さくら様』。
そんな『さくら様』の頭を撫でる『
5人は何も言えず、ただ『優しい光景』に涙を流していた。
そして願った。
「この時間がいつまでも続くように」と。
この光景を目撃した宮廷画家が描いた絵は、新しい王城の『謁見の間』に飾られることになった。
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