第142話



『人身売買』事件が発覚したことで、このまま招待客として来ていた各国の代表は非公式の『国際会議』を開いた。

これまた非公開で徹底的に調査されることで話は纏まった。

それはそうだろう。

彼らが大切に思っている「さくら様が狙われた」のだから。

さくらが自由に外を出歩けるようになったと聞いて喜んだものの、それが『さらなる危険を招く』事になっては意味がない。


初めて『国際会議』に参加した獣人族の新族長シルバラートは『さくら様の人気』に驚いた。

しかし『天罰騒動』でさくら様の適切な指示がなかったら、どれほど多くの村や町が混乱した魔獣や動物たちに襲われ滅ぼされたか分からない。

それをさくら様が未然に防いだのだ。

『乙女の魔石』よりさらに高価な『さくら様の魔石』を惜しげもなく無償提供してくださったとも聞く。

そのおかげで際限なく通信が可能となり、事細かな指示や対処方法を伝えることができた。

それが被害を最小限に食い止めることに繋がったのだ。



それはセリスロウ国でも同様だった。

何が起きているのかも理解出来ない状態だったシルバラート。

国内各地から届くのは混乱して救いを求める国民たちの声。

偉大な父の影に隠れて『次期族長』という立場を甘く見ていた自分には『どうすればいいのか』なんて分からなかった。

そんな中で父セルヴァンから通信が入った。

その瞬間、すべての感情があふれ出して「父上!助けてください!」と泣きじゃくってしまった。

落ち着くように一喝された後、父の指示通りに動いた結果、国内の被害は混乱した魔獣との戦闘で数人が軽傷を受けただけで一人の犠牲も出すことがなかった。

それは他国でも同じだったようで、普段から魔獣や魔物の被害が多い地域では『救いの女神』としてさくら様をあがめている町や村もあるそうだ。




「シルバラート殿」


国際会議が終わるとうろこ族の代表『リンカスタ』がシルバラートに声をかけてきた。

セリスロウ国にある湖が海と地底湖で繋がっているらしく鱗族はよく国に来ており、代表であるリンカスタもよく王城に来ていた。

何より彼女の存在は母を早く亡くした自分たちにとって『母親同様』だった。

シルバラートは拳を握った右手を胸に当てて腰を折る『この大陸アリステイド式の挨拶』をしようとしたが「そんな風にかしこまらないで」と止められた。


「リン!お久しぶりです!」


補佐として控えていたアムネリアがリンカスタに駆け寄る。


「アムネリア殿は変わらず元気ですね」


そう言って微笑むリンカスタ。


「アムネリア。『此処』は『セリスロウ国ウチ』ではないよ」


そう。此処は『エルハイゼン国他国』だ。

自国と同じ感覚でいてはいけない。

自分たちは『国の代表』として此処にいるのだから。

シルバラートに注意されると、以前に同様の理由で父を激怒させてボコボコに殴られたことを思い出し、喜びで紅潮してた顔が一瞬で真っ青になった。


「アラアラ。セルヴァン殿に『厳しく叱られた』のね」


そんなアムネリアの様子を笑って見ていたリンカスタ。

その笑顔のままシルバラートに目を戻す。


「シルバラート殿。最近、セルヴァン殿と直接お会いされまして?」


「はい。先日のパーティーが最後ですが」


「私はお会いすることも出来なかったわ」


「父は『天花てんか』が始まってすぐに王城へ戻られましたから」


リンカスタはシルバラートの返事に不快な表情を見せる。


『お披露目』の時は他の賓客とは違う、『一段高い場所』に父たちは列席していたのだ。

そのため自分たちも父と直接会えたのはパーティー会場に出てからだ。

そして自分たちも姉カトレイアと弟ソルビトールがセリスロウ国内の現状を伝え、父に「よく国の安寧に努めている」と誉められた時に『天花』があがり、父は王城へと戻ってしまったため話は出来なかった。


そうシルバラートが話しても不快な表情は変わらない。


「いいわ。セルヴァン殿とお会いすることがあったら前もって教えてくださるかしら?」


「はい!」


元気よく返事するアムネリア。

リンカスタはそんなアムネリアの頭を優しく撫でて「カワイイ子ね。楽しみに待っているわ」と迎賓館へ戻っていった。

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