第102話



ちなみにこの世界アリステイドで紙は『貴重品』だ。

それもさくらの世界でいう『わら半紙』で、国交などに関係する公式の場で使われるのも『中質紙』だ。

一般市民を含めて主流は羊皮紙。

『上質紙』など見たこともない。


『そうですか?さくらの世界では『いろんな色の紙』があふれていますよ』

『折り紙や画用紙など、用途によって使い分けるため『紙の種類』も色々ありますよ』


その言葉に流石のドリトスでも驚いたようだ。

あとでさくらが持っている紙のいくつかを見せてもらうことになった。

書き終わった紙を貰っていたヒナリとヨルクは『今の会話』を後で辞典を借りて読むらしい。




当の本人さくらは変わらず歌を楽しんでいる。

ハンドくんが新しいジュースを出すとさくらが残っていたジュースを飲み干す。

CMの時にハンドくんから『紙のこと』を聞いたさくら。


「ねえねえ。『おもちゃ』は押し入れの中だよ。確か『一番上』の段」


『分かりました。探して出します』


さくらたちの会話の意味が分からないが『何か』を見せてくれるらしい。

CMに目を向けたさくら。


「ハンドくーん。あれ食べたい!」


ジタンから魔石のお金もらえた?

あれネットで買えるよね!買いたい!食べたい!


さくらが目を輝かせて話しだす。

「ネットってなんだ?」と顔を見合わすヒナリとヨルク。


『分かりました。魔石のお金はまだですが何とか手に入れましょう』


ハンドくんの言葉に「ヤッター!」と両手をあげて大喜びするさくら。

直後にCMが終わって曲が流れるとさくらは再びテレビに夢中になってリモコン片手に歌い出した。



2時間で番組が終わると、さくらは握っていたリモコンをパチパチといじって番組表を出す。

再放送のクイズ番組を見つけてそのチャンネルを選択。

ただ番組が始まるまで、まだ数分はあった。

その間にさくらは冷たいお茶を飲んでのどを潤していた。




『セルヴァンが到着とうちゃくします』


ハンドくんの報告にさくらは引き戸を見る。

セルヴァンが少し頭を下げて入り口鴨居にぶつからないように注意しながら部屋へ入ってきた。

ちなみにヒナリも頭を下げて部屋へ入ったが、ヨルクはハンドくんに頭を強制的に押さえ付けられて無理矢理下げさせられていた。



「セルぅ」


嬉しそうに両手を伸ばすさくらに気付き一瞬驚いた表情を見せたセルヴァンだったが、すぐにさくらを慎重に抱き上げる。

さくらは呼吸を詰めることなく嬉しそうにセルヴァンの胸に顔をうずめている。


「良かったわね~。さくら。セルヴァン様のことずっと心配してたものね」


「早かったな。一週間は戻ってこれねぇって喜んでたのになー」


ヨルクの言葉にセルヴァンは睨もうとしたが、その時にはすでにハンドくんが張った『結界の中』でハリセンを数発受けたようで、後頭部を押さえて座卓に突っ伏していた。

さくらからはヨルクのいる場所は背後にあたるため死角になる。

そのためヨルクの様子をさくらは知らない。




「此処の説明はハンドくんに受けたかね?」


「ええ。さくらの『部屋のひとつ』だと。この部屋にいればさくらの回復が早いと聞いたのですが・・・」


腕の中のさくらはセルヴァンの胸に頬をすり寄せて甘えている。

セルヴァンが最後にみたさくらは、顔色も悪く声も出せず指も動かせなかった。

それがたった数時間で『怒気にあてられる前』まで回復しているようだ。


ハンドくんがさくらが使っていた座椅子を退けて座布団を置いてくれる。

そこへさくらを抱えたまま胡座あぐらをかいて座った。



「さくらは此処で何をしていたんだ?」


「映画観て〜。歌番組観て〜。いっぱい歌った!」


「セルヴァンには今度歌を聞かせてあげようかね」


「うん!」


「そうか。楽しみにしているからな」


『今日は歌いすぎです』

『これ以上歌うならクチを塞ぎますよ』



ハンドくんの脅しに、さくらは両手でクチを塞いでプルプルと左右に首を振る。

その様子にセルヴァンは抱き寄せて頭を撫でる。


「慌てなくて大丈夫だから」


まだ自分のクチを塞いでいるさくらはコクコクと首肯する。

その仕草が可愛くて誰もが笑顔になった。



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