第101話
テレビの画面にアニメ映画が映し出されると、さくらは楽しそうに曲にあわせて身体を前後に揺らす。
そして「あ〜る〜こ〜」と歌い出した。
その様子をドリトスはにこやかに見守り、ヨルクとヒナリは口と身体の動きをハンドくんたちに塞がれていた。
ハンドくんがホワイトボードに『さくらの
激しく首を縦に振る2人と、さくらに隠れて2人を脅すハンドくんにドリトスは苦笑する。
ハンドくんに手招きをしてさくらの後ろに回ったハンドくんが持つホワイトボードに『さくらの身体は?歌っても大丈夫だったか?喉に負担は?』と書いて尋ねる。
ハンドくんがそれにルビをふってヨルクたちに見せると『ここは『さくらの
『もちろん
ハンドくんたちはドリトスたちの世界で使われている文字を読み書き出来る。
しかし『さくらの世界の言葉』を勉強している2人のためにドリトスはあえて日本語で書いた。
こっそりヨルクの隣に『分厚い辞書(最新版)』が置かれており、ヒナリが先程の会話で分からない単語を調べだした。
そしてさくらはテレビ画面から目を離さなかったためヨルクたちの様子に気付いていなかった。
アニメ映画を見終えると、ヨルクは一気に疲れが出た。
話自体は不思議で面白かったが、初めて見た世界に頭がついて行かなかったのだ。
ハンドくんからは最初の方で『
それだけ『さくらの世界』について知らないことが多すぎたのだ。
色々と勉強して、次に観た時はもっと楽しみたい。
ヨルクはそう思った。
「さくら・・・それはちょっと」
女神が現れて慌てている。
「どうしたの?」
ヒナリが尋ねると「え!あ・・・いえ」と歯切れが悪い。
『その映画は今日観れません』とハンドくんがホワイトボードに書いた言葉を読んださくらが口を尖らせる。
「今度ー?」とさくらが聞くと『今度です』とハンドくんがハッキリ止めている。
「『白黒』のだよ」
『分かりました』
ハンドくんの言葉に納得出来たのか、さくらは出されたジュースを飲む。
『次は録画した歌番組にしますか?』
「うん」
さくらは歌番組を観れば必ず歌い出す。
そのため『ジュースでノドを潤して』というハンドくんならではの配慮なのだろう。
その横ではハンドくんがルビを振っていないホワイトボードを見ながらヒナリとヨルクが辞典で漢字を調べていた。
コンコンとさくらが咳をする。
するとすぐに女神が現れた。
この部屋へ連れてきてくれた女神でも『エルフ族襲撃』で現れた女神でもない。
「はい。さくら。アーン」
女神に言われて素直に「あー」と口を開くさくら。
その口に丸いものを女神が入れると「ん」と言いながら口を閉じる。
そして「いちごー」とニッコリ。
「のど飴よ。まだ治ってないからムリしちゃダメですからね」
言い聞かせるような女神の言葉に「はーい」と素直に手を上げて返事をするさくら。
その様子に「絶対分かってない!」とその場にいた全員が同時に心の中でツッコミをいれた。
もちろん分かっていない。
だってさくらは自分が『ムリをしている』なんてコレっぽっちも自覚していないのだから。
歌番組が始まり曲が流れるとリモコンを左手に握りしめてご機嫌で歌い出すさくら。
リモコンは『マイク代わり』のようだ。
その楽しそうな姿をドリトスは笑顔で見守っている。
ヒナリとヨルクは画面を食い入るように観ていた。
次々と場面が変わり歌っているたくさんの『人族』。
それにも驚かされたが、曲の殆どを歌えるさくらにも驚いていた。
『さくらは童謡や唱歌、わらべ唄、民謡、CM曲やテーマ曲なども含めた『さくらの国の歌』や『他国の歌』など2,000曲以上を歌えます』
『それは『さくらの国』では当たり前なのかな?』
『さくらほどではないですが大人でも1,000曲以上。子供でも300曲は歌えるでしょう』
楽しく歌うさくらの邪魔にならないように、後ろで筆談するドリトスとハンドくん。
彼らが書いているのはホワイトボードではない。
【 『コレ』ってなんだ? 】
ヨルクが筆記で『この世界の言語』で聞くと『紙とボールペンです』と『日本語』で返事が来た。
さくらの世界では『紙は当たり前』らしい。
以前見せてもらった本は『記録を残すため』に紙を使っていると思っていた。
そうではなく落書きやメモなどにも使っているらしい。
それもこんなに真っ白な紙で・・・
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