第91話
「では『今の状態』は?」
【 記憶の整理中 】
【 今までは『寝ている間』に処理されていた 】
【 しかしここ最近は『精神的なこと』が多すぎて処理が間に合っていない 】
【 それが『記憶障害』として現れている 】
「そいつは・・・これからも『こうなる』ことは有り得るのかね?」
ドリトスは腕の中で眠っているさくらの頭を撫でながらハンドくんに確認する。
【 有り得る 】
【 『記憶の整理』がつかなければずっとこの状態が続く 】
【 でもそれももう長くはない 】
『長くはない』
・・・それは消される『元の世界』の記憶が『残り少ない』ということだろうか。
「その『記憶の整理』って何なんだよ」
【 記憶の『辻褄合わせ』 】
【 記憶の『すり替え』 】
【 そして、知識でも『不要』と思われるものは『記憶の移行』をしている 】
「それはどういう?」
【 『さくらの魔石』に移している 】
「でも『不要な知識』ってどう判断してるの?」
【 持っていても『さくらが苦しむ』だけの知識 】
【 誰かの死。家族の死や知り合いの死もそう 】
【 『必要』だと分かったら、さくらに戻される 】
「・・・そうね。『飛空船事件』の恐怖は『忘れていい知識』だわ」
あの時、さくらは一晩中悲鳴をあげて目を覚ましていた。
朝方になって、ようやく『悪夢』から解放されたのだ。
【 あの時の恐怖はもうさくらの中にはない 】
【 あのあとすぐに『削除』された 】
それを聞いたヒナリは「良かった」と呟いた。
さくらが苦しみ続けた時、ヒナリは一晩中付き添っていたのだ。
だから繰り返し思い出して苦しませるようなことはしたくなかった。
「なあ。さくらの好きな『歌』とかは?」
【 『趣味』として残っている 】
【 さくらの場合、『
ヒナリはそれを聞いて安心した。
さくらは歌が好きで、『童謡』や『唱歌』などという、さくらの世界の歌を聞かせてくれる約束をしていたから。
そういう『楽しい約束』まで消えてなくなってしまうのが怖かった。
安心したのか涙を浮かべて喜ぶヒナリ。
その隣でヨルクがさくらとドリトスを見つめている。
「さくらがドリトス様にだけ『反応』したのはなんでだ?」
【 この世界で最初にさくらに『優しくしてくれた』相手だから 】
【 それを『記憶』ではなく『
「ああ。・・・そうじゃったな」
ドリトスは腕の中で眠るさくらを見ながら『初めて会った日』を思い出す。
全員で集まって話し合いをしていた応接室の外で大きな物音がしたためドリトスが様子を見に出た。
ドアの近くにいたセルヴァンが出なかったのは『揉め事』なら心強いが、それ以外の問題が起きていた場合の
部屋に通じる廊下に立っている少女を一目見て『女神に愛されし娘』だとすぐに分かった。
キョトンとした表情で小首を傾げて自分を見てきた
そのまま左側を指差されて目をやると、床に倒れた兵士と落ちている抜き身の剣。
そして怯えて腰を抜かしている兵士がいた。
「ハンドくんたちが居たとはいえ、剣を向けられて怖くなかったはずはないよな」
「だから『記憶がない』今でもドリトス様の腕の中が一番安心出来るのね」
ヒナリの言う通り、さくらはドリトスの腕の中で安心した表情を浮かべて眠っていた。
「一つ確認したい。・・・さくらが『幼く感じる』時がある。それは『このことに関係している』のか?」
「高熱を出して寝込んでいた頃からじゃな」
ドリトスの言葉にセルヴァンが首肯する。
ヨルクとヒナリは『今のさくら』しか知らず、2人の言葉に驚いていた。
【 関係している 】
【 記憶を消されたさくらは『この世界に生まれ直している』ようなもの 】
【 つまり『赤ん坊』と同様 】
【 さくらの身体が動かないのも声がでないのも『同じ理由』 】
【 筋力が失われて身体が動かせないのも、また事実 】
「それなら、これからは『成長』していくのじゃな」
ドリトスがイスを揺らしながら、眠るさくらの身体を軽く叩く。
さくらの身体からは
また熱が出てくる可能性もあるため、部屋に戻ることにした。
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