第87話
「今日は『屋上庭園』はムリかなー?」
ヨルクが座卓から身を乗り出すようにさくらを見る。
さくらの調子が良い時は、屋上庭園で過ごしている。
植物が好きなさくらが喜ぶからだ。
「今日は止めておきましょ。胸が苦しそうだったから」
屋上庭園へ移動するだけでもさくらは体力を使う。
少しの瘴気でも吸い込めば、さくらの身体は『浄化』をしてしまう。
それは『
『さくらと浄化との関係』をハンドくんに説明されて、誰もが言葉を失った。
だからといって、屋上庭園を含めた最上階を神が清浄化してしまうと屋上庭園にある植物や出入りしている妖精たちに『しわ寄せ』がきてしまう。
だから少しでも調子が悪い時はこの『浄化された部屋』から出せない。
それに屋上庭園で待っている妖精たちに心配顔をさせたくないとさくらは無理をしようとするのだ。
「お前たちは『日本語の勉強』でもしてろ」
「うわっ!セルヴァン横暴!」
『横暴』『勉強不足』とハンドくんがホワイトボードに書くとヒナリとヨルクが漢字を読めなくて悩む。
逆に漢字が分かるセルヴァンとドリトスはクックッと笑う。
「ほら。お前らは
「大声を出して、さくらを起こすんじゃないぞ」
ハンドくんを先生にした『日本語の勉強』は、さくらが目を覚ますまで続けられた。
ホワイトボードに書かれた単語をヒナリとヨルクが漢和辞典で漢字の読み方を調べて分厚い辞書で意味を調べる。
意味を調べても日本語で書かれているためその言葉の読み方や意味も調べる事になる。
そのため、さらに時間がかかる。
でもその努力の結果『横暴』と『勉強不足』は読めるようになった。
「さくら。なにか飲むか?」
『のむー』
目を覚ましたさくらにノドが渇いていないか聞くと何か飲みたいとのことだった。
ハンドくんからジュースが半分入ったグラスを受け取ったセルヴァンが、ストローをさくらの口にあてる。
さくらはストローでひと口吸ってはプクプク〜と吹き出す。
そしてまたチューとひと口吸ってはプクプクプク〜と息を吹き出す。
それを数回繰り返していた。
チュー。
プクプク〜。
チュー。
プクプクプク〜。
「遊ぶな」
セルヴァンが苦笑しながら注意すると、さくらはストローを銜えたままクスクス楽しそうに笑う。
笑う度にストロからプクプク〜とジュースに泡が生まれる。
「さくら。お行儀が悪いわよ」
向かい側に座るヒナリからも注意されたけど・・・
チュー。
プクプク〜。
チュー。
プクプクプク〜。
「さくら!」
ヒナリに強めに叱られてふくれっ面になるさくら。
セルヴァンの横に座るドリトスがさくらの頭を撫でて
落ち着いてきた所で口から離れてしまったストローをさくらの口に戻すと再び笑顔でプクプク〜とストローで息を吹いてジュースに泡を作る。
「ヒナリ」
さくらの様子を見守っていたセルヴァンが目線でヒナリに横を向かせる。
チュー。
プクプク〜。
「ヨルク!『さくらがマネするから止めて』って何回言ったら分かるのよ!」
「何度言われても分から〜ん」
ヨルクがヒナリを
「イッテー!」
一瞬の後に、全員がさくらをみる。
チュー。
プクプク〜。
チュー。
プクプクプク〜。
両耳をハンドくんたちに塞がれていて、さくらはヒナリに怒られないのをいいことに『遊び飲み』を楽しんでいた。
さくらの周りに薄い『膜』が見える。
『さくらを守るための簡易結界』が張られたのだ。
両耳を塞ぐ事で『簡易結界』が張られるらしい。
ただし『簡易』のため長時間はもたないそうだ。
「さくら!ヨルクの『悪いマネ』したらダメでしょ!」
ハンドくんたちが塞いでいた耳から離れたとたんにヒナリに注意されてプイッと横を向くさくら。
そのままセルヴァンの胸に顔を押し付ける。
セルヴァンが持っていたグラスをテーブルに置いてさくらの背を
ドリトスもさくらの頭を撫でて慰める。
さくらの背中を擦っていたセルヴァンの手がトントンと軽く叩き出す。
少ししてすぅっとさくらの寝息が聞こえてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。