第63話




「イッテェ・・・」


ヨルクが後頭部を押さえて芝生の上で寝転がっている。

さくらの寝言で2人からゲンコツを食らった直後。

突然現れたハンドくんに口を塞がれて、後頭部に『ハリセン攻撃』を一発受けたのだった。

そのそばで、同じく芝生に座っているセルヴァンとドリトス。



「ヨルク。重大な事を言い忘れていたが・・・神々以上に、さくらのことで一番『怖い』のは『ハンドくんたち』だからな」


「ジタンでさえ、何十発も『ハリセン攻撃』を食らっておったぞ」


「さくらが止めなければ、20人の『ハリセン一斉攻撃』を食らう所だったな」


「そんな大事なこと言い忘れるなー!」


「シィー!」


唇の前に人差し指をあてたヒナリに注意されて、慌てて口に手を当てて黙るヨルク。

今は揺り椅子ロッキングチェアにヒナリが座り、眠るさくらを膝だっこして揺れている。


ヨルクがハンドくんに『ハリセン』を受け、驚いたヒナリが声を張り上げた。

その声でさくらが身動みじろぎして目を覚ましてしまったのだ。

『呪い』が解けたからと言って、『ひと眠りしたから全体力復活!』なんて都合のいい話はない。

もちろんさくらの体力も回復しているわけもなく。

レベルアップで『体力魔力ステータス異常すべて全回復』も、現実では起きなかった。

・・・もちろん「好きなゲームジャンルはRPG」というさくらは『実験』済みである。


だから、さくら自身は起きていようと頑張っていても『少しでも眠って体力を回復させよう』キャンペーンを展開中のさくらの身体。

そこにドリトスとセルヴァンの『フカフカ毛皮攻撃』と『頭ナデナデ攻撃』のダブルコンボですぐに寝落ちしたが、今度はヒナリの方が深く落ち込んでしまった。


それに気付いたドリトスは、さくらが完全に眠りについたのを確認してからヒナリに交代するように言った。

揺り椅子ロッキングチェアに座っての『膝だっこ』なら、ヒナリにも大きな負担はないだろう。

はじめは『おっかなびっくり』でさくらを抱っこしていたが、緊張より母性愛の方が増したのだろう。

今は『母親』の顔をして、愛しそうにさくらを抱きしめてトントンと軽く一定のリズムで叩いている。

ヒナリが口ずさんでいるのは、翼族なら誰もが知ってる『子守唄』だ。



「あーあ。幸せそうな顔しちゃって」


「本当にな」


「まったくじゃ」


「・・・なに見てんだよ」



大人2人に呆れた表情で見下ろされたヨルクがふてくされる。


「自覚していないようじゃな」


「そのようですね」


さくらを見ているヒナリだけではない。

腹ばいになって2人を見ているヨルクも幸せそうな表情をしているのだ。

もちろん、ドリトスとセルヴァンもさくらの事に関してなら、ヨルクやヒナリの事を笑えない位に猫っ可愛がりしている。






「まさかと・・・ムグムグ」



屋上庭園へ入って来ると同時に声をかけてきたジタンを瞬時にハンドくんが口を塞ぐ。

1人は『ハリセン』を手にしてジタンを『強迫』している。

ジタンは後頭部を両手で押さえて、涙目で何度も頷いた。




「何が『まさか』だったんだ?」


ハンドくんに口を塞がれた状態で、ヨルクたちのいる芝生へ誘導されたジタンは、ようやく口を塞がれた理由を理解した。

ハンドくんたちから手を離されて、大きく深呼吸するジタンにヨルクが小さめの声で聞く。


「ええ。実は屋上庭園に『金色の光』が集まっていまして。それでさくら様がいらっしゃられるのではないかと」


ガラス張りの周囲を見回しても、煌めいているのが陽光か『金色の光妖精たち』なのか分からない。

さくらが寝ている今は窓を開けない方がいいだろう。

気紛れな妖精たちに、さくらを起こされては困る。

今はただ、眠ることでしか体力を回復出来ないさくらを、少しでも長く寝かせてあげたい。


・・・それに、ここにいる誰もがこの『幸せな時間』を壊したくないのだった。





「ン・・・」


久し振りによく寝た。

目が覚めても身体のダルさとかはあるが、それは体力が回復していないからだろう。


「よく眠れた?」


ヒナリの声が上から聞こえて、見上げるとヒナリが優しく見下ろしていた。

目を閉じてコテンとヒナリに寄りかかり「まだねんね〜」と甘えると「もう。さくらったら」とクスクス笑い声が降ってくる。

それにつられて私もクスクス笑う。



「目を覚ましたか」


「具合はどうじゃ?」


セルヴァンとドリトスが寄ってきて、心配性のセルヴァンが私の額に手をあてる。


「柔らかで気持ちいい〜」


「コラコラ」


「その『具合』じゃない・・・」


「ドリトスはフカフカで〜。セルヴァンはモフモフなの〜」



苦笑のドリトスと呆れているセルヴァンだったが、それでも私の『評価』には笑っていた。




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