第62話




ヨルクから貰った『羽衣』は、身につけるだけで効果があるそうだ。

ヨルクに抱かれた状態でヒナリが腰に巻いてくれる。

高熱を出した頃から、なんとか手は動かせるが、足はほとんど、全然、まったく動かない。


仕方がないよね。

『これでもか!』っていうくらい寝てて、足を含めた身体の機能を十分に使っていなかったんだから。

『廃用症候群』の『廃用性筋萎縮』ってところかな?

これは『病気』ではなく『身体的症状』だからリハビリで回復させるしか方法がないだろうけど・・・

体力も無くなっていたから、今まで無理リハビリは出来なかった。


ひとりでは自身の身体を支え続ける事すら出来ない。

セルヴァンやヨルクがすぐに『お姫様だっこ』で抱えてくれるし、リビングには『私専用』のひじ掛け付き座椅子が用意されているから、座位ざいは何とかなっている。


お昼ご飯も、サンドウィッチではなかったのは『握られる』けど『摘まめない』からだろう。

これが『私一人』か神々と一緒なら、ハンドくんが食べさせてくれただろうけどね。

でも『呪い』が消えた今、少しずつでも練習リハビリが出来る。



・・・当分、無理も無茶も出来ないが。




ぼんやりしていたら、ヨルクが私を抱えたまま日向ひなたへ歩いていく。

昨日の事があったから、ちょっと怖くてヨルクにしがみついて目を閉じる。

『元の世界』では『層』があったため太陽光を直接受けていなかった。

しかし『この世界』には『層』がないため太陽光を直接受けてしまう。

その結果が昨日の『日射病』だ。



「大丈夫よ。さくら」


「さくら。目を開けてみろ」


恐る恐る目を開けると、もう陽の下に出ていた。

でも身体は『陽の光』を感じていない。

空を見上げても、雲ひとつない青空なのに目は眩しさを感じない。

肌をさすような感覚もない。


「あっれー?」と言いながら目を擦ってたら、ヒナリに手を握って止められた。


「大丈夫よ。コレが陽の光からさくらを守っているの」


「ちょうど、さくらの周りに『水の膜』を張ってるようなもんだ」


そういえば、私が魔法の練習してた無人島も、勝手に別荘まで作って私有地化した無人島も、『島の意思』が張っている結界は『水の膜』だ。


よくよく考えれば、昨日、初めてこの世界の陽の光を浴びたんだよね。

エルハイゼンに来た当日は王城内で短時間だったし、『神の怒り』で翌日から曇天だったんだから。


これならいくらでも外を『出歩ける』ようになる・・・






「だからと言って日向ひなたにずっといて良いわけがないだろう」


ヨルクの背後からセルヴァンの声がして、そのままセルヴァンの腕の中へとさらわれる。


「ほれ。こっちじゃ」


ドリトスがセルヴァンの横から手を伸ばして私を攫う。

そのままドリトスに『保護』された私は、揺り椅子ロッキングチェアまで避難して、今はドリトスに『膝だっこ』状態。


ヒナリも一緒に来て、「大丈夫?熱は出ていない?」と心配しながら頭を撫でてくれる。

ヨルクは離れた場所でセルヴァンに『ゲンコツ』を貰って叱られている。

ヒナリは『お説教回避』が許されたのだろう。

私はというと、ゆっくりと動かされる、揺り椅子ロッキングチェアの気持ちいい揺れに目蓋が重くなっていく。


「今は無理せず眠っていなさい」


頭を撫でられて、ドリトスの温もりも追加されて気持ちよくなっていく。

ン・・・ヨルクがなんか言ってるのが聞こえる。


「バカいぬ~。カタブツ~。とーへんぼく~」


「おやおや。・・・もうおやすみ、さくら」


聞こえる言葉をマネしていたら、笑いを含んだ声のドリトスに片耳を手で塞がれた状態で抱き寄せられた。

ドリトスはモフモフ度が少ないけど、『毛皮着用』だからフカフカなんだよね~。

まるで柔らかい毛布にくるまれているみたいで安心する。


やっぱり『オリジナル毛皮』って癒し効果バツグンだわ・・・





さくらが眠ったのを確認してからスゴい勢いで飛んできたヒナリが、ヨルクの頭をゲンコツで殴る。


「イッテーなー!何すんだよヒナリ!」


「もう!『さくらがマネするから変なこと言わないで!』って言ったでしょ!」


ヨルクとセルヴァンがさくらをみると、ドリトスの腕の中で眠っている。

耳がドリトスの手で塞がれている所を見ると、ヒナリの言うとおりヨルクの声が届いていたようだ。

セルヴァンがさくらに近寄り、額に手を伸ばす。


「大丈夫じゃ。熱は出ておらぬよ」


ドリトスの言葉に、安心して全員が息を吐いたのだが。



「ン・・・『いかついデカブツ』~」



さくらの寝言と共に、ヨルクの頭にヒナリとセルヴァンのゲンコツが落とされた。



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