第59話




「何が起きたか知りたいと言うから映像をみせたんだが・・・まさかあんなに深く心に傷を負っていたとは思わなかった」


「それは私も同じです」


寝室には創造神とアリスティアラだけが残っていた。


「さくらには『乙女の魔石』の使い方を教えた方がいいだろう」


昨日はアリスティアラがさくらのアイテムボックス内にある『乙女の魔石』を使って、さくらの身を守った。

魔法でも結界は張れるが、魔石を使う方法もあるのだ。


特にさくらが精製する『乙女の魔石』は、聖なる乙女が生み出す『乙女の魔石』とははるかに違う。

聖なる乙女の魔石が『ルビー』なら、さくらの魔石は『ダイヤ』だ。

今まで乙女の魔石では1回が限度だった『通信』も、さくらの魔石なら最低でも3回は通信が出来る。

その『さくらの魔石』で結界を張れば、普通に『乙女の魔石』で結界を張るより強固だ。


昨日のエルフ族の攻撃程度なら結界にキズをつけることは出来ないだろう。



「『これから』のこともある。あの賢い『さくらの魔法生物』にも使えるようにしておこう。彼らには申し訳ないことをした。さくらを助けに行こうとしたのを止めたのだから」


「いえ。彼らはちゃんとわかっています」


「彼らは『我らが助けに行く』と言い出す前にさくらの周りに飛び出そうとしておった。それを若い神たちが遮ったのだ。『さくらに感謝されたい』との欲望から・・・」


「・・・それは彼らが今まで後悔してきたからでしょう」


あの日・・・外出を止めたアリスティアラを遮って、この国の『次期国王』たちを使って外出させた。

その結果、さくらは『呪い』を受けて、今日こんにちまで長く苦しませてしまった。

確かにあの時は暗殺集団の隊長の『目』を通して『呪い』をかけてくるとは思ってもいなかった。

助けに飛び出したのは『汚名返上』『名誉挽回』のつもりだったのだろう。


・・・それがさらに『さくらのココロにキズ』を負わせてしまった。



彼らはいま『バツ』を受けている。

神でも『罰』は受けるのだ。

彼らはもう『神籍しんせき』ではない。

・・・『除籍』されたのだ。

『若い神だから』という理由で許されることは何ひとつ無い。

『神』である以上、言動に責任があるのだ。



「『新しき神々』は既に決まり、『彼ら』のたましいには『シルシ』が付いておる。『役目』が済めばシルシを付けた時の姿で神格化する」


彼らは『それ相応』の功績を多数挙げている。

そして神々からも満場一致で神と名を連ねる事が認められている。

『信賞必罰』の意識は高いのだ。




・・・もちろん、本人達には『その事』は伝えられない。

『残りの一生』をムダにさせないためだ。


「さくらの『呪い』が解かれてすぐ、此度こたびの『呪い』に加担した者たちと関係者にはすべて『天罰』は与えてある。エルフ族にもだ。これによって『聖なる乙女』の召喚が決まった。いずれ、さくらは会うだろうが・・・だが、今は身体とココロを癒すことが最優先だ」


「はい。分かりました」


その言葉を最後に、室内は静かになった。







「何なんだよ。『これからのこと』って・・・」


ヨルクは腕の中で眠るヒナリとさくらに目をやる。

彼は神々が降臨したときから目を覚ましていた。

そして神々の話をすべて聞いていた。

彼が起きていることに気付いていたのは創造神だけだろう。


彼らは『呪い』に手を出せなかった。

出せば『さくら以外の人の生死』にかかわるからだ。

それでも『ことわり』を破ってでも助けようとした女神がいる。

彼女はそれがさくらを苦しめると分かっていても、最後にはさくらを守るために手を出しただろう。


もうすぐ、消えたかもしれない『さくらの生命』。


神々は、生命を消される前に『此処ここではない何処どこか』にさくらを閉じ込めるつもりだったらしい。


・・・『閉鎖した世界』。


確かそう言っていた。

そこへさくらを連れ去られたら、二度と取り戻せない気がする。

何処であろうと、オレたちからさくらを引き離して『閉じ込める』ようなことは絶対させない。

たとえ相手が神であっても、さくらを絶対に守り抜く。



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