第45話




会ったばかりにも関わらず、自分たちに向けられた『悪意』に巻き込んでしまった『雛』を守って死ぬ覚悟をしたヨルクとヒナリ。

しかし火球の衝撃波が襲ってくることはなかった。

ヒナリが、次いでヨルクが目を開けて周囲を見回し、同時に飛空船の方を向く。

そこに浮いていた飛空船はなく、王都の外で激しく燃え上がる『何か』が見えた。


『王城へ戻れ』


アタマに響いた男性の声。

ヒナリはさくらに目を向ける。

ヨルクも目線を下ろしたが、さくらは小さく震えていた。


「戻ろう。セルヴァン様と約束したよね」


「ああ。『何かあればすぐ戻れ』って言われたもんな」


きっと離れた場所から見ていただろう。

そして心配している。


「今は『雛を守る』のが優先だ」


下にいるはずのジタンを探したがすぐに見つけられなかった。

しかし何人か見たことのある人物たちが2人に気付いたため、ヒナリが王城を指差す。

手をあげて合図を貰った2人は顔を見合わせて王城へ飛んでいった。







「お主ら!無事じゃったか!」


心配したぞ!とドリトスがヨルクたちに声をかける。

セルヴァンはヨルクからさくらを受け取る。


「セルヴァン様。申し訳ございません」


ヒナリがセルヴァンに頭を下げる。


「謝ることはない。2人はさくらを命懸けて守ろうとした。それは俺もドリトスも分かっている。2人共、よくさくらを守って連れ帰ってくれた」


セルヴァンのねぎらいの言葉にヒナリは張ってた気が緩み、大粒の涙をこぼす。

ヨルクはさくらから目を離せなかった。

さくらはずっと、目をキツく閉じて小さく震え続けていた。

セルヴァンが揺り椅子ロッキングチェアに座り、膝に乗せたさくらを落ち着かせている姿を見ている。


「雛はもう・・・オレたちを怖がるようになるのか?」


「お主らは、せっかく出会えた『雛』を諦めるのかね?」


「私・・・諦めたくない」


「オレだって!」


「それだったら大丈夫じゃ」



ドリトスに励まされて2人は気持ちが落ち着く。

そして思い出した。



「私たち、何が起きたか分からないの」


「『王城へ戻れ』って頭に声が響いて『ああ。戻らなきゃ』って。『雛を守らなきゃ』って思ったんだ」


「私も。同じ声が聞こえて。震えているさくらを見たら『戻らなきゃ』って」


「そうか。そうか」


ドリトスはさくらに目を向けて細める。

さくらは落ち着いて来たようでセルヴァンに笑顔を向けて何か楽しそうに話している。


「ホレ。ここでクヨクヨ悩んでいても何も始まらんぞ」


ドリトスは背の高い2人の背を押し、さくらとセルヴァンのもとへと連れて行った。




王都外壁のさらに西、何もない荒れ地に、コーティリーン国の飛空船が黒く焼け焦げて地に堕ちていた。

これだけの被害なのに乗員に死者はいない。

あれが『神の怒り』だった証明だ。

そして皆『天罰』を受けていた。

彼らは地面を転がり回り「火が消えない」と言っている。

さくら様の仰った父レイソルたちの受けている『見えないいばら』ではない。


「さくら様に見て頂けると天罰の種類も分かるのでしょうが・・・」


先ほどの様子から、さくら様に見て頂くことは出来ない。

空を見上げるが、さくら様の姿はそこにはなかった。


「ジタン様」


騎士の一人が声をかけてきた。

父がジタンと同年代の貴族の子息を集めて『学友』としたうちの1人だ。

彼も、ヒナリやヨルクと遊んだことがあった。


「ヨルクたちがさくら様を王城へ無事にお連れ致しました」


「そうですか。・・・無事で良かった」



さくら様に最後にお会いしたのは2ヶ月以上も前。

密偵の騒動の時だ。

その後高熱で50日も寝込まれていたさくら様は、今なお長くはベッドから離れられないと聞く。


そんなさくら様が飛空船に興味を持たれていたのは知っていた。

外には出られないけど王城から見たいと仰られていることを知り、屋上庭園から見て頂くことにした。

いずれは王室専用の飛空船にお乗せしたいと思っている。

望まれるなら、セルヴァン様のセリスロウ国でもドリトス様のヒアリム国でも、その両国にお連れしても構わない。

きっとさくら様は「どちらも行きたい!」と仰られるでしょう。


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