第37話





私は、休憩後もセルヴァンに抱えられて王城内探検中なんだけど・・・

周囲の気配がピリピリしてて怖い。

ジタンの警備かなー?

でもジタンがハンドくんたちに叩き回されてても出てこないし。


「さくら。どうした?」


「・・・え?」


セルヴァンに声をかけられて顔を上げる。

心配している顔のセルヴァンに驚いていると、セルヴァンの大きな手が私の左手を覆う。


「・・・・・・アレ?」


「・・・気付いてなかったのか?」


気付かずに、セルヴァンの胸元のモフモフにしがみついていたわ。

それも小刻みに震えてる。


「さくら様?」


ジタンは何も感じないらしい。

やはりジタンの警備かと思ったけど、ドリトスは何も言わないが周囲を警戒しているんだよね。


・・・ヘン。

何がどうとか具体的なことは言えないけど、やっぱりヘンだ!

『下手の考え休むに似たり』『考えるより動け』だ!


「もうヤダ!ガマン出来ない!ハンドくん!連中を叩きのめして引き摺り出しちゃって!」


私の声と同時に、アチラコチラでもの凄い音が響きだした。

ジタンはその音に「何なんですか」「何が起きてるのですか」って驚いている。

ドリトスとセルヴァンは冷静に状況を把握しているのか「ワシらは応接室で待ってようかのう」などと話していた。




応接室に移動した私たちは、ソファでくつろいでいる。

私は長ソファで上半身を横にして、クッションを抱きかかえて『ぐでぐで』中。

ついでに魔石も精製中。

私と長円型のテーブルを挟んでいるジタンは、ソファに座ってるのに緊張したまま。

外から『ドッタンバッタン』って、暴れてる音が聞こえているからかもしれない。


離れて話し合ってたドリトスとセルヴァンは時々こちらを見てたけど、何やら結論がついたようで戻ってきた。

セルヴァンは私の所へ来て、私の上半身を起こして座った。

そして私を元に戻したから、現在は『ひざまくら』状態。

『頭ナデナデ』のオプション付き。



「少しは落ち着いたかのう?」


ドリトスに頷いて身体を起こそうとしたら、セルヴァンに引き戻された。

そしてそのまま肩に左手を置かれて上半身はホールド。

右手は変わらずナデナデ続行中。

「セ~ル~」と恨めしく見上げても、笑顔でスルーされてるし。

ドリトスから「そのままで良い良い」と言われて私も諦める。



「さてジタン」


ドリトスが、私に向ける好々爺の表情から厳しい表情に切り替えてジタンを見る。


「お主はさくら殿に『無償で魔石を譲って頂いたお礼』は伝えたか?」


「え?あ!」


ジタンは慌てて立ち上がり「大変失礼致しました」と頭を下げる。


「さくら様には『乙女の魔石』をお譲り頂いたのに、ひと言もお礼もせず申し訳御座いませんでした。お許し下さい」


「どうする?さくら」


ハンドくんたちが時々出てきては、ハリセンでジタンを叩いていたのは『ご主人様に魔石のお礼を言わんかい!』っていう意思表示だったんだ。

で、2人はそれに気付いていて黙ってた。

ジタンの『自主性』をおもんばかってのことだろう。

現在、絶賛天罰続行中の父親たちとは違い、ジタンはちゃんと指摘を受け入れられるようだ。


「たとえ王族だろうと『してもらって当然』なんてないんだよ?ちゃんと『礼』を返さないとね」


『聖なる乙女』が元の世界からこの世界に連れさらわれてきて、この世界を浄化するのが『当たり前』って思ってない?

彼女たちは『家族や大切な人たち』から引き離されて、見知らぬ世界にひとり放り出されたんだよ?

『昔の人』は『自分たちの世界の浄化のために申し訳ない』と思って、丁重にお世話したり『元の世界に似せた住居』や料理、食材とか心を砕いたんじゃないの?

この世界の味が私の世界の味に近いのも、それが理由なんじゃないの?


そこまで言ったら、3人とも驚きの表情で固まった。

セルヴァンもナデナデの手が止まってるよ。


「自分が『乙女と同じ』ように、ひとりで『ここではないどこか』に放り出されたら?」


・・・そんなこと、考えたこともなかったの?


「私たちは『選ばれてうれしい』とも『光栄だ』とも思わない。『今すぐ家に帰して!』としか思えないよ」



ねぇ。

この世界の人たちは、『先代の乙女』に『受けた礼と同等かそれ以上の礼を返した』の?


誰も何も言わず、顔を俯かせているだけだった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る