第188話 いくつもの顔
「・・・助けなきゃ、だよねぇ・・・。」
砂浜に倒れている人のそばにソロソロと近づくリーフ。
「いやボクも誰かに助けてほしい状況なんですけど・・・。まあ仕方ない、もしもし、大丈夫ですか?!」
おそるおそるうつぶせの身体を仰向けにさせる。
すでに死んでいて、とんでもない顔になっていたらどうしようと思ったが、現れた顔は綺麗なものだった。
ただとんでもなく青い。
「生きてるかな・・・」
首に手を当てたり、手首の脈を診たり、心臓の上の方を触ってみたりするが、体が冷たすぎてよく分からない。
その男の年の頃はアーサーより少し上、23,4歳ぐらいだろうか。白い粗末な服を着ているが、大きくてがっしりと頑丈そうな体をしている。
アーサーと同じ綺麗な紅い髪で、腰まで細く長く伸びている。
リーフはどうにかして男を動かそうとするが、砂浜で足を取られるし重いしでビクともしない。
「しかたないな・・・誰か助けを呼んでこよう」
リーフがその場を立ち去ろうとした瞬間。
ガシッ
と男がリーフの足首を掴んで言った。
「水・・・もってこい・・・早くしろ・・・!」
「なんでイキナリえらそうなのーーーー!!」
とは思いつつ、急いで水を探すリーフ。
幸い海岸から少し入ったところに廃墟みたいな小屋があって、そこに井戸があった。
古びた桶に冷たい水を貯め、砂浜で胡坐をかいている男に渡す。
「生きていたんだ・・・。よかったですね・・」
「まずっ!」
男は桶の水を一気飲みしながら文句を言い始めた。
「お前な、この桶洗ったか?!汚れだらけじゃねーかったく!」
さすがにムッとするリーフ。
「こっちだってわけわからない状況で困ってるんです!人助けしてる場合じゃないんですーーーー!!
幸いお元気なようですんで、あとはご自分でどうぞ!
じゃあ、ボクは行きます!」
行先など決まっていなかったけど勢いよく歩き出すリーフ。
別に男がついてきている気配もなかったが振り返らないと決めて歩いた。
さっきの無人の小屋を抜けるとすぐ、結構うっそうとした森に入る。
「森を抜けたら、きっと民家がある!はず!」
しかし歩けば歩くほど森は暗~くなって・・・
「あれ・・・道がないけど・・・あれ?」
気が付くと森の中で茫然と立ち尽くし・・・。
ガサッ
背後から、横から、前から、何かの気配がする。
「囲まれてる・・・?!」
以前、双頭の狼やら、8つ頭の大蛇やらに襲われた記憶が蘇るリーフ。
ここはどんな怪物がいてもおかしくない世界なのだ。
「どうしよう・・・。いつもいつも、都合よく誰かが助けてくれるわけないし・・・。」
ガサッガサッ
すぐ横の草むらが大きく揺れたかと思うと、そこから何かが出てきた。
人の顔・・普通の男の人の顔。
「ああ・・・人間だった・・・!良かった・・・!あのスミマセン、ボク迷子でして・・・。」
リーフがホッとしたのもつかの間。
その影は大きく伸びた。
男の顔は顔だけで、他にも何十もの人の顔が引っ付いている、巨大な丸い肉の塊の物体。
顔だらけの下からヌメヌメした人間の足に似たものが生えて動いている。
「うわああああ」
リーフは腰を抜かしてその場に座り込んだ。
一番驚いたのは、その顔だけの人間たちがまだ生きていて、声は出ないがしゃべりかけようとしていることだった。
その塊がリーフに近づこうとするたびに ぬちゃ、ぬちゃ、と音がして、紅い液体が流れ落ちる。
(このままじゃあ、ボクは殺される・・・・!)
痛いほどの心臓の鼓動を感じながらリーフはそう思った。
(いやだ・・・死ぬのは嫌だ・・・・)
しかし体が動かない。
恐ろしい肉の塊は、腕を体の中から伸ばしてきた。死人の腕を切り取り、貼り合わせたような血みどろの腕がリーフに向かってくる。
(リーフ、この世界を助けて)
リーフの頭に。青のドラゴンの声が響いた。
「そうだ・・・ボクは死にたくないんじゃない、死ねないんだ!
か・・・風のレイピア!!」
リーフの太ももの紋章が青く光り、蒼く光る風のレイピアが出てきた。
化け物は一瞬たじろぐ。
腰を抜かしたままだがリーフは剣を構える。
剣を教えてくれたとき、へっぴり腰だと笑ったアーサーの笑顔を思い出して少し落ち着いた。
「・・・ろ・・・してく・・・」
「え?!」
肉の塊についているたくさんの顔からかすかに声が聞こえてきた。
聞こえたんじゃないかもしれない。風のレイピアの力がその叫びを聞き取ったのかもしれない。
「ころしてくれ・・・」
そう言っていた。
「ころして・・・」「ころして・・・」「はやく」「わたしたちを・・・」
「この人たちは、元は普通の人間で、何かに化け物にされたの・・・?!」
恐怖よりも悲しみを感じるリーフ。しかし肉の塊は確実にリーフをも取り込もうとしている。
「ごめんなさい、ボクは死ねないんです!」
リーフは勇気を振り絞って剣を振るった。もちろんへなへなで命中することはなかったが、風のレイピアに宿っている魔法の力が小さな竜巻を起こし、肉の怪物を切り裂く。
張り付いている人の顔が苦痛でひどくゆがんだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
リーフが謝りながらも剣を振り回し、肉を切り刻んだ。
怪物が苦し気にのたうち回っている間に、リーフはなんとか立ち上がり逃げ出す。
「待てよ!ったく宝の持ち腐れだな・・・!」
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