第178話 リーフ
明日、返事を聞きに来ると小次郎が言っていたので、逃げ出すなら今夜しかない。
逃げると言っても、大ちゃんの計画はただ家に帰る、というだけのものだった。両親は旅行でいないが、鍵の隠し場所は分かるので家に入ることができる。
(でも親に女の子になったことがばれたらどうしよう・・・いやきっと、遅かれ早かればれる・・・。)
そのことだけは気がかりだったが、ここにいて小次郎に迷惑かけるわけにもいかない、と思うのだ。
夜。
まずは小次郎がクローゼットに用意してくれている服に着替える。
「スカートのヤツしかない・・・。」
ちょっと困る大ちゃん。
数着ある服はどれも高そうでセンスがある物だが、スカートかワンピースだった。
仕方なく中でも青っぽいワンピースを選んで着た。
ひらひらしていて足元が心もとない。
「スカートを着ると・・・本当に女の子になっちゃったみたいで複雑な気分だなぁ・・・。」
何の計画もないので、部屋を出てエレベーターに向かった。
こういう所は入る人には厳重にだが、出る人には優しいはずである。
深夜1時、警備員の姿はなかった。
「おお、楽勝楽勝♪」
赤いフカフカの絨毯の先に、この階専用の豪華なエレベーターがある。
この階とロビーにしか止まらないらしい。
ボタンを押すと数秒で扉が静かに開いた。
大ちゃんはそっと乗り込む。
「こんばんは。どこに行くの?」
そこには瞬が立っていた。
「瞬・・・さん・・・」
急いで逃げようとするが、寸でのところで扉が閉まる。
大ちゃんは視線を瞬から外さないようにして広いエレベーターの隅に移動した。
「どうして・・・ここに・・・?」
「ずっとここに泊まり込んでいた小次郎さんが今日はいないって聞いてね。チャンスかなーって」
相変わらずの美少年面で微笑む瞬。
「チャンス・・・?」
「あ、かわいい!ワンピース似合ってるね!さすが小次郎さんのセンス!いいね、どうやって脱がそうかな?」
瞬が大ちゃんに迫る。
(今日こそは、自力で逃げるんだ!)
年上とは言え、瞬は可愛い顔をしているし体も細いし、もしかして今なら自分でもなんとか出来るんじゃないかと思う大ちゃん。
(ボクだって男なんだから!)
今は胸が大きい女の子だと言うことを忘れている。
壁際の大ちゃんに瞬が迫った時、扉が開いた。
ドンッ
大ちゃんが瞬を思い切り突き飛ばす。
瞬は少しよろけたが、すぐに体を立て直して逃げる大ちゃんの腕を掴んだ。
そしてそのままロビーの床に引き倒し、馬乗りになる。
大ちゃんが必死で抵抗するが瞬はビクともしない。見かけよりもずっと強いらしい。
「やめて!やめて!だれか・・・」
いつもなら誰かいるであろう、大病院のロビーに、人っ子一人いなかった。
これが、法も常識も関係ない人間、のすることなのだ。
瞬は個包装されたあのパッチを口で開けた。
「ねえ、大ちゃん。例の薬だけどどうだった?最高だったでしょ?一つ使えば天国に行ける。」
そう言いながら、大ちゃんにパッチを一つ貼る。
また体が熱くなる。
「いやっ・・・」
「で、二つ貼ればどうなると思う?」
瞬は二つ目のパッチをまた口で開ける。洋服を引っ張り大ちゃんの背中を剥き出しにして、二つ目のパッチを貼った。
「五感を残したまま自由が利かなくなるんだって。ほら、試してみて?」
大ちゃんの手足は全く動かなくなった。
「こういう無理矢理なシチュエーションがお好きなお客さんも多くてね。一回二百万払っても楽しみたいんだってさ。ホント男ってバカだよねぇ。」
この間の”ショールーム”とは違う、どこかのホテルの豪華な部屋。身動きが取れない大ちゃんは人形のように抱きかかえられてここまで来た。
大ちゃんの部屋ほどもありそうな大きなベッドに仰向けに寝かされている。
ツルツルの真っ白いシルクのシーツに体が沈む。
手足は動かないが、心臓が動くたびに大きな乳房が上下した。
瞬は高そうなお酒を飲みながら、面白そうに大ちゃんを観察する。
「そうそ、ここはこの前の屋敷と違って、姉さんには内緒で借り上げたホテルの部屋だから、都合よく助けは来ないと思って。もう途中で邪魔されたくないじゃない?一度ボクの物になっちゃえば、小次郎さんもあきらめるでしょ、キミのこと。」
(ボクの物になるって・・・)
大ちゃんは泣きそうになるのをグッとこらえた。
「キミはホントに不思議・・・。あの金髪の女や、赤毛の男はなんだったの?知り合い?」
大ちゃんは目で「知らない」と言った。
「だよねぇ、まるでゲームの中の人間みたいだったもの。でも、キミもボクも、たぶん小次郎さんも確かに見たんだ。いきなり現れて消えたあの人のことを・・・。
うん、素敵だ!いいね!退屈していたこの世の中に、まだまだボクが分からない謎があるんだから!
ねえ、リーフ。」
瞬は大ちゃんを”リーフ”と呼んだ。
大ちゃんの心臓が大きく鼓動する。
ドクン ドクン
”リーフ”
自分を呼ぶ紅い髪の男。
「リーフ、なの?」
瞬が大ちゃんに顔を近づける。そして大ちゃんの口にお酒を垂らした。
薄く開いた唇から強いアルコールが胃に流れ落ちる。
ふふ、と瞬は笑い、首、胸、腹、下腹部にもお酒を垂らしていった。
「ボクが全部舐め取ってあげる。」
大ちゃんの唇がふさがれた。
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