第169話 胸の痛み
「いたた・・・」
胸の奥がチクりチクリとする痛み。激痛ではないが、何とも言えない違和感に大ちゃんはうずくまった。
「大丈夫?!あばらかな・・・病院に行く?いや、行こう!」
「あ・・・いえ、そんな大げさなもんではないんです・・・。あはは、筋肉がひきつったのかな・・・」
大ちゃんは笑って見せたが、小次郎は酷く心配そうな顔をしている。
まあとにかくお茶でもどうぞと言いつつ小次郎をなだめて、2人はアパートに入った。
「ここで座っててくださいね。今、アイスコーヒーを入れますから。」
と大ちゃん。
「いや、大くんが座ってて。ボクが何でもやるよ。アイスコーヒーは冷蔵庫にあるの?グラスは戸棚のを借りていい?」
小次郎は要領よくあれこれ準備した。安アパートのボロ冷蔵庫から手作りアイスコーヒーを出して、スーパーで買ったどうでもいいグラスを使っても、小次郎がするとカッコイイギャルソンのようだった。
その間に大ちゃんはトイレに立った。
ちょっと少女趣味な、レースが多いトイレの装飾は母親の趣味だ。
(小次郎さん、こういうの見て笑わないかな・・・)
14歳、お年頃の大ちゃんはちょっと恥ずかしくなった。
実は、心配されると思って小次郎には言っていないけれど、まだ大ちゃんは胸が痛かった。痛いというか、熱くなっている。
体全体が熱を持っているようだった。かといって風邪の時のような不快感はない。
「あれ・・・?」
小用をしようとズボンのファスナーを下ろした時、大ちゃんは酷く違和感を感じた。
「え・・・あれ?」
いつも無意識に出しているモノがない。
「えええ・・・あ・・・えええ・・・・!!」
パニックになる大ちゃん。
そしていつもより視界が低くなってくる。異様に熱くなった胸を我慢できずはだけると、かなり大きな乳房が付いていた。
「うそっ!」
トイレを出て、手洗い場の鏡を見る。
そこには黒髪で茶色の瞳の可愛い女の子がうつっていた。
「誰なの・・・?」その女の子の口が鏡の中でそう動く。
「ねえ大くん、冷凍庫の氷はもらっていい?」
小次郎がトイレの大ちゃんに向かって尋ねる。返事がない。
「・・・大くん?」
「大くん!!」
嫌な予感がしてトイレに駆けつける小次郎。ガチャガチャとトイレのドアを開けようとするが、鍵を掛けているらしく開かない。
「大くん!大丈夫か?!大くん!!」
小次郎は力任せに開けようとする。
(・・・だめ・・・こんな姿見せられない…開けないで・・・)
大ちゃんはそう言おうとするが、声が出ない。
小次郎はトイレのドアに体当たりし始め、何度目でドアは蝶番の所から大きくゆがんんで壊れた。
「大くん!」
手洗い場の隅っこでうずくまって震える大ちゃん。
「どうしたの、大丈夫なの・・・」
まだ息の荒い小次郎が大ちゃんの両腕を掴んで自分の方を向かせる。
ぶるん
白い何かが揺れた。
「え・・・?」ふたつの大きな乳房。
大ちゃんの制服を着ているが、半裸で泣いている小さな女の子がそこにいる。
「え・・・・?」
「小次郎さん・・・・」
やっと出た声は、鈴を振ったような可愛らしい声だった。
「え・・・?きみ・・・大くん?」
コクン。泣きながら大ちゃんは頷く。
「うそ・・・いや・・・あ・・、とりあえず服を・・・」
小次郎は戸惑いながらも自分の上のシャツを脱いで小さな大ちゃんに羽織らせた。
「・・・ほんとうに、大くん・・・?」
落ち着くためのアイスコーヒーを飲みながら、大ちゃんは「はい・・・。」と言う。
「あの、女の子だったの、キミ?」
「いいえ」というしかない。
「そうだよね、事故の時も確かに男の子で・・・ご両親も”息子が”って言ってたし。でもじゃあどうしていまは・・・」
わからい、と首を横に振る大ちゃん。
「・・・実はボク、大学で医学の勉強をしてるんだ。良ければちょっと見せてくれないか?キミの身体を。いや、もちろん本当の病院に行くべきなんだけど。」
そう言われて大ちゃんは迷った。
(女の子の体になったのを小次郎に見られるのはもの凄く恥ずかしいけれど、病院に行くのなんて嫌だし・・・。もし見てもらって、原因がわかって、元に戻れるなら・・・。)
気が進まないながらも、大ちゃんは
「お願いします・・・」と言った。
もしイキナリ親が帰ってきた時に困るからと、2人は小次郎の住むアパートに移動することにした。
大ちゃんはブカブカになったジーンズと白いTシャツと言う姿である。
女の子用の下着がないので歩くたびに大きな乳房が揺れて痛かった。
「大丈夫?」
この言葉はこれで何度目だろう。小次郎は常に大ちゃんの心配をしている。
超イケメンの小次郎と、チビで巨乳の大ちゃんと言う組み合わせはカナリ目立っていた。
大ちゃんは気付いていなかったが、道行く男の子は大ちゃんのことをジロジロ見ている。
チビの黒髪、簡単な服装と大きな胸のギャップがたまらないらしい。
小次郎はそんな視線からさりげなく大ちゃんをかばいながら、自分のマンションまで連れて行った。
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