第167話 戻る

「リーフ!」


リーフのもとに、ホシフルの国の銀髪の兄弟マーリン王子とララ王子が走り寄る。


「マーリンさん、ララさん!どうしてここに・・・これは一体・・・」


「話はあとだ!早くここを離れて!この空間の凍結化はしばらくするとまた始まる・・・!」


気を失っているジャックを抱えてマーリン、ララとリーフはその場を離れた。


少し小高い丘までたどり着くと、さっきまで化け物同士が戦っていた森の一角が一望できた。

その中央には、抱き合ったまま凍り付いた空間に閉じ込められたルナとアリスが見える。


「ルナ・・・!アリス・・・!あの二人はどうなっちゃうの?」

バリバリと音を立てて、ゆっくりと再び辺りが氷に包まれていく。少しずつ、確実に、それはどんどん広がっているようだった。


「マーリン王子、ララ王子!」

すがるような瞳で二人を見つめるリーフ。


「あれは、空間凍結の魔法だ。」

マーリンが答えた。

長く美しい銀髪と、ヒスイ色の瞳の王子は、随分久しぶりに会うリーフをじっと見つめる。


「空間凍結・・・」

「一時的だが、空間と時間を異次元に封じ込める魔法だ。かなり危険方法だったが、あの悪魔たちが相手となると仕方なかった・・・。」


「マーリン、ここもじきに凍結に飲み込まれる。結界を強化して屋敷まで戻ろう。リーフ、詳しい説明はそこでする。」


マーリンとララは、呪文を数回唱えた。

ムラサキの小さな円がいくつも現れ地を這い、凍結している空間の周りを囲む。


「・・・これでしばらくはもつか・・・」



マーリンとララがリーフの方を振り返った時、リーフの後ろに濃い金髪の大柄な男が立っていた。

リーフは気づいていない。

男は剣を振り上げる。


「リーフ!」

2人の王子が同時に叫ぶ。

リーフはその視線の先、自分の後ろに振り向いた。


太陽を遮る、見覚えのある大きな影。

「ヒューさん・・・」


ヒューの剣は、リーフの胸を貫いた。




リーフは自分の身に何が起こったのか分からなかった。


あの、ぶっきらぼうだけど優しいヒューがなぜか目の前にいて、自分の胸を剣で貫いている。


不思議と痛みはなかった。


ただ、マーリンとララがヒューを殺そうとするかもしれないと思ったので、一言だけ言葉にした。



「お願い、ヒューさんを殺さないで・・・。」


リーフはそのまま意識を失った。


自分の名前を呼ぶいろんな人の声を聞きながら。





「大ちゃん。」


1人の男の子が目を覚ます。

「・・・・」


天井は見慣れない、白。

見覚えのない真っ白いベッドとシーツ。

「・・・」

男の子は、しばらく何も考えられないまま白い天井を見つめた。


消毒液の独特の香り。


「病院・・・・」


「そうよ、ここは病院よ!」

横を向くと、女の人が立っていた。さっき「大ちゃん」と言った声。


「お母さん。」

男の子はほぼ反射的に言っていた。


「良かったー!目を覚ましたのね!警察から電話貰った時には、心臓が止まるかと思ったわよー!」


「・・・警察・・・」


「やだ、大丈夫?覚えてないの?大ちゃん、家の前の四つ角で自転車とぶつかっちゃって、気を失って、病院に運ばれたのよー!もう驚いたのなんのって・・・。」


大ちゃん、と呼ばれた男の子はゆっくりと体を起こした。「起きて大丈夫?看護師さんに聞くからちょっと待って・・・」という母親の言葉を聞きながら、辺りをゆっくりと見まわす。


”山本 大”


ベッドのネームプレートに書いてあった。


「あ、そうか、ボクだ。」


大ちゃんは不思議な感覚で自分のことを思い出していた。随分長い間眠っていた気がする。

頭がズシンと重かった。


母親や看護師、医師の話をまとめると、大ちゃんは学校帰りに歩道を歩いている時、スピードを上げて飛び出してきた自転車とぶつかり転倒、頭と胸を打って病院に運ばれたらしい。


検査の結果、肋骨にひびが入っていたが脳には異常がなかったという。



「ボク的には、学校が休めてラッキーなんだけどねぇ~」

目覚めて数時間後、その日の夕方には大ちゃんはいつものダメダメな様子で元気に戻っていた。


「休みったって、今日木曜日でしょ、明日念のためもう一度検査をするけど、週明けには学校行けるわよ!」

安心した母親もリラックスして話す。

「自転車に乗っていた大学生の男の子、ご両親と一緒に来てもの凄く謝ってくれてね・・・。お断りしたのに、治療費のほかにけっこうな額のお見舞金までいただいたんだ。大ちゃんのケガもたいしたことなさそうだし、大げさにしなくていいと思うんだけどどうする?おまえはどうしたい?」

大ちゃんが気が付いたと聞いて会社から駆けつけてきた父親が言った。


「あ、うん、もちろん大げさにしなくていいよ、ボク別に怒ってないし。ほら、ボクもボーッとして歩いていたからさ・・・。」

大ちゃんは人の良い笑顔で笑った。


でも心の中では、何かとても大切なことを忘れているような焦燥感があったのだが・・・。

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