第166話 凍結した地獄

リーフがルナのところにたどり着く前に、百目の巨人の手がリーフに伸びる。


最初の一撃は、混沌の亡霊の剣によって防がれたが、すぐに次の手が伸びてきた。


「リーフ!」ジャックの叫び声。


百目の巨人の手がリーフの眼球を貫こうとした瞬間、赤い光と青い光が強力なバリアのようにリーフを覆い、怪物の手をゴッ!と音を立ててはねのけた。


くり抜かれた片目を押さえながらルナが言う。

「そうだ・・・!アリスにさえ赤の欠片の加護が現れたんだ・・・!リーフ様がドラゴンたちに守られないわけがない・・・・!」


「この光・・・・今のうちにルナを助けないと!」

リーフは2色の光とともにルナのもとに急ぐ。


「リーフ様!どうしてこんな無茶を!加護はありますがこの状況では絶対ではありません!早くお逃げ下さい!」

「ルナ、ボクは弱虫だし、ボク自身には何の力もないよ!でもここまで、この世界で生きてこられたのはみんなの、いろんな力のおかげなんだ!それはきっと誰かを守るために必要だからなんだと思うんだ。

だから・・・今はルナを助ける・・・!」


リーフは胸のペンダントを握りしめた。

「マルスさん!!お願い!」


ペンダントは金色に光り、その光の中から軍神マルスが現れる。


大国、ツバサの国の秘宝、リーフが王より譲り受けた守護者のペンダント。


2メートルを超す巨体のマルスは金色の鎧を身にまとい、金色の髪をたなびかせ、赤い瞳でリーフを見つめた。


「我が主よ。」

「マルスさん!百目の巨人と混沌の亡霊を倒してください!」

「承知した。」


マルスは身の丈より大きい黄金の剣を振りかざし、百目に向かって突進した。

剣は空間をも切り裂くように舞う。

その舞いは分断された百目の身体を粉々にした。


「やった!すごいよマルスさん!」

「あっ・・・!」

ルナの視線の先には、血を吐きながら地面に膝をつくアリスの姿があった。


「自らの体を代償にして悪魔を呼び出した場合・・・悪魔の受けたダメージはすなわち術者のダメージ・・・!アリス・・・」


マルスとともに混沌も、残り半分の百目に向かって攻撃する。


マルスの重い一太刀が、アリスの体をも刻んだ。


もちろんルナの身体もただではすんでいなかったが、ルナは自分が流す血など気にも留めなかった。

えぐられた右目さえも。


「・・・あ・・・アリス!!アリス!やめてくれ、アリスを殺さないでくれ・・・!」


ルナは地獄のような怪物たちの戦いの場に飛び出していく。


「ルナ!危ないよ!戻ってきて!」

リーフの声もむなしく、ルナはマルスの剣と怪物たちの攻撃にさらされた。

もちろん、コッペリア神殿始まって以来の最強の戦士と言われたルナ、神業に近い剣さばきで応戦するのだが、地獄の亡者たちにはかなうわけもなかった。


マルスの剣も容赦なくルナを襲う。

「ダメだ・・・このままじゃあルナが・・・!

・・・マルスさん!ペンダントに戻って!」

リーフの叫びとともに、マルスはルナの頭上に金の剣の残像を残して煙のように消えた。


「そうか・・・」

ルナがアリスの顔を見る。アリスはハッとした。「まて、ルナ・・・・!」


ルナは自分の心臓に自分で剣を突き立てた。

混沌の亡霊の動きが止まる。


「ルナ!」「ルナ!!」

リーフとアリスがほぼ同時に叫んだ。


アリスが血を吐きながらルナのもとに走る。

「ルナ・・・!なにやってるの・・・!」

アリスの腕の中でルナはまだ息をしている。


「アリス・・・そばにきてくれた・・・。やはりわたしはお前を・・・化け物に殺させることは・・・できない・・・・」

「ルナ・・・・・・・!!」


アリスがルナを抱きしめる。

次の瞬間、そのアリスの背中から、光るものが出てきた。


ルナの剣の刃先がそこにある。


「ぐっ・・・・」

「アリス・・・お前を・・・殺していいのはこの私だけ・・・・」


ルナの剣はアリスの心臓を突き通していた。



百目の巨人の動きも止まる。



その時、地震のような大地の震動が始まった。


「地獄の門が開く・・・・私たちを飲み込むために・・・・。」


「ルナ!アリス!」

リーフは二人を助けようとするが、恐ろしい大地の揺れで立っていることも出来ない。


「ダメだリーフ、このままでは俺たちも地獄に引きずり込まれるぞ!」

ジャックがリーフを止めたが、大地はまるで海の波のように辺り一面を揺らした。


ジャックは怪我から血を流しながら怪鳥に変身し、リーフを抱きかかえて空に浮上する。


しかし地獄からの黒い闇がジャックの身体を捉えて、地面に引きずり倒された。


激しい勢いで地面に叩き付けられるジャックとリーフ。

ジャックはまた、リーフを包み込むように守っている。

「ジャックさん・・・!」素早く立ち上がるリーフ、だがジャックは気を失っている。


「ああ・・・リーフ様・・・・このままでは皆地獄に・・・この世界が・・・・ああ・・・。」

ルナの嘆き。

それを聞いてアリスは微笑んだように見えた。




次の瞬間。




青い魔法陣が空中からいくつも現れ、地獄の闇を囲う。


青い魔法陣はそれぞれが広がり、滝のように光を流す。


すると、地獄の空間は、氷に閉じ込められたように時が止まった。


リーフとジャックの足元で凍結が止まる。


「リーフ!」


そこに立っていたのは、妖精の子孫にして魔術師の兄弟王子、マーリンとララだった。





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