第161話 暖かい心臓

夜、リーフは一人ブルー王の部屋に入った。


暖炉の火だけが、パチパチと音を立てている。


ブルーは死んだように眠っていた。

そっと近づくリーフ。


「ブルーさん・・・」返事はない。


「・・・・」


「・・・・」


「・・・・・・・・。えっと・・・どうしたらいいんだろう・・・・。」リーフは焦った。

「今までボク、されるがままだったからなぁ・・・。なんていうか、どうしていいのかわからないよ・・・。」


無理矢理だったクロードにしても、(一応)合意だったジャックにしても、リーフはただ身を任せていただけだったのだ。


(・・・ある意味、リードするのってすごいんだなぁ・・・。ボクが男に戻ったらできるかな・・・)

微妙な立場で自信を無くすリーフ。


「う~ん、とりあえず・・・」

リーフはブルーにキスをしてみた。冷たい唇が軽く触れる。

ブルーが少し動いた気がしたので、リーフはもう一度キスをしてみた。

「これでいいのかな・・・?」


「いいよ」


ブルーが目を覚ました。


「ブルーさん!」

リーフは焦って目が真ん丸になるし、顔が赤くなる。

「なんて顔するんだ、リーフ・・・」

「だって・・・えっ・・・ボクの顔が見えてるの?」

ブルーの焦点はしっかりとリーフの瞳を捉えていた。


「・・ああ・・・。お前の力なんだな。心臓が、暖かい・・・。触ってごらん」

ブルーはリーフの手を、自分の心臓の上の肌に乗せる。

ドクンドクン・・・緩やかに上下して、ちゃんと動いている心臓を感じた。

生まれて、今日まで生きてきた証。


(命、なんだなぁ・・)

リーフは、今、自分がしなければいけないことが分かった。それはブルーの命を助けること。

(この心臓の動きを、止めたくない。)


「・・・あの・・・ボクの心臓も、暖かいよ・・・、ブルーさん・・・」

それが、今のリーフの精いっぱいだった。




朝は、ゆっくりとやって来た。


リーフがブルーのベッドで目覚めると、横には誰もいなかった。窓から見える太陽の高さで、もう朝というより昼が近いことが分かる。


「ブルーさん・・・?」

リーフがボーっとしながら、ベッドに座ったままで辺りを見回していると、バニイが入ってきた。喜びを隠せない笑顔で。


「リーフ様、お目覚めでしたか・・・!ああ、なんという素晴らしい朝でしょう!何もかもが輝いて見えます・・・!

ブルー様がお元気になられました!ええ、むしろ以前よりも力強く!!

リーフ様、わたくしは、感謝してもしきれません・・・!未来永劫この命、リーフ様に捧げる所存にございます・・・!」


「そんな、大げさだよ。いいんだよ、バニイさん・・・」

リーフは、自分が裸だということに気付いて慌ててシーツを羽織る。


「お召し替えをお持ちいたしております。皆さま広間でお待ちですので、参りましょう。」




リーフが広間に入ると、ブルー王をはじめ、ロザロッソ、ロバート、ルナが勢ぞろいしていた。


「おつかれ~」

最初に口を開いたのはロザロッソ。

「昨夜はがんばったみたいじゃない?ブルー王、随分元気になってるわね」

「もう・・・やめてよ、ロザロッソさん!」

「いいじゃない、こんなイケメンとなんてうらやましいわよ」

その口とは裏腹に、ロザロッソは少し寝不足に見えた。



「アリスは、危険だ」リーフの横の椅子に座ったブルーは言った。

「彼女の目的は分からないが・・・、赤のドラゴンを復活させるというよりも、復活を阻止しているような気がする・・・。」

「何のために?だって、赤のドラゴンがいないと世界が壊れちゃうんだよ?」

「あいつならやりかねない。百目の巨人を呼び出して100人の仲間を殺させた女だ。」

ルナは憎々しげに言う。

「いっしょにいたという、シャルルとかいう赤の欠片を持つ男はどうだったんだ?死にかけてたのか?多分アリスを抱いてるんだろ?」

とロバート。リーフは胸が少し痛む。


「恐らく・・・。アリスをホシフルの国へ送り届けると言っていたが、体に異常はなさそうだったな・・・。なぜだろうか?」

その時、リーフの指輪が急に光りだした。赤く、大きな光。

「熱いっ・・・!外せない・・・!」

「なに?!どうしたのよそれ!」

ロザロッソがリーフの指から指輪を外そうとするが、あまりの熱さに触れない。

「これは・・・シャルルさんから貰った・・・」

「・・・!まさか!」


ブルーがその指輪に触れると、赤い光は共鳴するようにさらに大きく広がった。ブルーとリーフの頭の中に、血だらけで倒れるシャルルの姿が映る。


「シャルルさん!!」

リーフが幻に向かって叫ぶ。幻はリーフを見た、ような気がした。

「・・・リーフ、おまえにも見えたのか・・?」

「ブルーさんも見えたんですね・・・どうしよう、シャルルさんが、シャルルさんが・・・!」


「こいつは驚いた!それは、たぶん赤の欠片、の欠片だ!体内から出ることがあるのか!」

ロバートは興奮気味に言った。

「なんらかの事情でシャルルと言う男の赤の欠片は砕けて体内から出たんだ。それを指輪ににして隠してたんだな。体内に残った欠片が完全じゃないから、アリスに乗っ取られなかったんだろう。」


「でも、シャルルさん死にそうだったよ!」リーフは泣きそうになっている。「助けに行かなきゃ、今すぐ!」

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