第119話 変化

ヒューにシーツをはぎ取られたリーフは、素早く部屋の隅に走った。

この後、男が何をするのかリーフは十分知っている。


(ボクだって、いつもやられてばかりじゃないぞ!)

立てかけてあったリーフの剣、青のレイピアに手を伸ばす。


その手に、剣の重みを感じた。

剣を持つということの安心感。自分の中の残る”男”の性。

強くなりたいと思った。



ヒューは狭い部屋なので、急ぐこともなくリーフを追い詰める。

リーフがただ振り回すだけの剣はなんなく避けられた。

壁際まで追い詰められ、レイピアを持つ方の腕をとられた。


「オレに刃向かって、男たちを拒否して、こんなウサギも殺せぬ剣さばきでどうする気だ。

メリッサの家で見たろう、あの黒のドラゴンの恐ろしさを。赤のドラゴンを復活させる以外、人間が生き残る道はないんだ。

オレは、守りたい。シャルルがいるこの村を。この世界を。」


ヒューはそのままリーフの首筋にキスをした。


「いやだ!いやだよ!」

「おとなしくしてくれ・・・シャルルが気づく・・・」

ヒューは手のひらでリーフの口を覆った。

リーフの赤い服を脱がせようとしたとき、リーフのレイピアを持つ手が自由になった。


(いまなら、背中からヒューを刺せる!)

リーフが右手に力を籠める。


でも次の瞬間、気付いてしまった。


(ボクに人が刺せるの?)


刺せるわけがない。リーフの中身は、学校で虐められても文句も言えない、おとなしい男子高校生なのだ。

自分が刺すことによって、ヒューの皮膚を破り肉を貫き、内臓まで傷つける。

血が流れ出る。


そんなこと、出来るわけがないのだ。


ゲームみたいに感情もない物言わぬ怪物になら出来るかもしれない。

でも、ここにいるのは人間で、誰かを大切に想っている人間なのだ。


リーフはポロポロ涙を流した。

(やっぱりボクはダメダメだ・・・。こんなボクが出来ることは、赤のドラゴンの欠片を体に集めることなんだ・・・。)

リーフは抵抗をやめて、目を閉じた。


リーフの変化に気付いたヒューは手を止める。


「ヒュー。やめて」

いつの間にかシャルルが部屋の入口に立っていた。

リーフのそばに来て、ヒューに脱がされた服を整えてくれた。

「優しい子だね、リーフちゃん。ヒューを刺そうと思えば出来たのに・・・。どうすればキミの苦痛を取り除くことができるんだろう。」


リーフはシャルルの胸でわあわあ子供みたいに泣き出した。




「ほんとのこと言うと・・・、ボク、まだ決心がつかないんです・・・」

温めたミルクを飲みながら、リーフはぽつぽつ話し始めた。

(後で分かったことだが少量のお酒が入っていた)

「でも、男の人と・・・しなきゃならないことは分かりました。でもでも・・・怖いんです。」

シャルルは頷き、ヒューは頭を掻いた。

「ったく、時間がないってーの!」


「あの・・・、実はボクはツバサの国へ行く途中だったんです。」

リーフはヒョウガの国でのこと、エリー姫のことを話した。

「だから、そのことも気になるんです。」


「じゃあ、そのエリー姫のことが片付いたら、心置きなくやれるんだな!!」

ヒューがしびれを切らして言った。


「・・・はい。あの・・・シャルルさんがよければ・・・、その・・・。」

「ボクが初めてでいいの?」

シャルルがリーフの顔を覗き込む。リーフの顔は真っ赤に赤くなった。燃えているように熱い。


「ありがとう、リーフ。でも時間がないから、ボクもその旅に同行していいかな。

ツバサの国のことが片付いたら、すぐに・・・」

「すぐに・・・?」

再び真っ赤になるリーフ。


「シャルルが行くなら、俺も行くぞ。そうと決まれば明日、出発だ!」

ヒューが立ち上がった。

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