第117話 黒のドラゴン

メリッサは暖炉の前に立ち、干した草のようなものを炎の中に投げ入れた。


すると白い煙が部屋中に立ち込めた。その煙はスクリーンのように何かの映像を映し始める。


「リーフちゃん、よく見て。」

煙の中の影は次第にはっきりしてくる。

黒い卵のようなものが次第に大きくなる様子が分かった。

そしてその黒い影に恐ろしい眼が光り、牙が見えてきた。


「ドラゴン・・・!黒のドラゴン!」思わず息をのむリーフ。

黒のドラゴンは、邪悪で巨大で美しい存在だった。

真黒な体に漆黒の翼、どこまでも闇を感じる黒く光る瞳、牙だけが銀色に怪しく光る。


その慟哭で町は消滅し、天地さえも揺るがす。

この世を創造した赤のドラゴンと青のドラゴンを消し去った、恐るべき異形。


たぶんリーフが想像する”地球”、この世界の”すべて”を、日が昇り沈む間に破壊することができるだろう。



その黒のドラゴンが、しばらくすると人間の姿になった。黒い翼はそのままで、黒い髪、黒い瞳のこの世の支配者のような男。

その男の前に、よく知っている一人の人間が倒れている。

「あれは・・・、ボク・・・?」

リーフだった。全身ケガだらけの血まみれで、レイピアを片手に倒れ伏している。


黒のドラゴンの男は、乱暴にリーフを引っ張り起こした。そして衣服をはぎ取る。

「!!」震えあがるリーフ。

男はリーフに後ろを向かせ、両腕を掴み、自分のものをねじ込んだ。

煙の中のリーフの顔が苦痛に歪んでいる。

「やめてっ!」

現実のリーフがとっさに叫んだ。

男の動きは激しくなり、リーフはおもちゃのように揺さぶられている・・・


「やめて、お願い、、見ないで!」

リーフはメリッサに訴え、煙をかき消そうとした。

ルーフの腕が煙の中の男に触れた時、男がこちらを見て目が合う。

「うわっ!」

驚いてしりもちをつくリーフ。メリッサは慌てて、さっきと違う色の草を暖炉に投げ込んだ。

白い煙は黄色くなって、消滅した。


「リーフちゃん・・・」

ガタガタ震えて立ち上がれないリーフに優しく手を貸すシャルル。


「ごめんよ、リーフちゃん。こんな残酷なものを見せてしまって。でもわかっただろう、黒のドラゴンは、こちらの動きを観察できるほど復活しているし、復活してしまったら、今見たようになってしまうんだよ・・・。

かつて、赤のドラゴンから青のドラゴンを奪い、邪悪を孕ませた黒のドラゴン。

リーフちゃん、あんたも邪悪を孕みたいのかい?」


リーフはブンブン無言で首を横に振る。


「リーフちゃん、黒のドラゴンが造り出した邪悪の世界を、赤のドラゴンが存在を賭けて壊し、のちに生きてきた生命が必死になって建て直したのが、今ある世界なんだよ。まだ完璧な世界とは言えないけどね・・・。

でもそれすらも、黒のドラゴンが復活すれば一夜にして灰と化し、再び混沌と邪悪だけの世界になってしまうんだ。そう、地獄だよ。勝手なこと言うかもしれないが、あんたの覚悟が、この世を救うんだ・・・。」


シャルルに支えられたリーフの震えは止まらなかった。

正直、黒のドラゴンをもっと軽く考えていたのだ。たとえばゲームのように、強くなればいずれ倒せるだろうと。自分でも、もしかしたら。


しかし今見た邪悪な存在は、ただの一つの生命がかなう相手ではなかった。その生命を生み出した存在を消し去ったのだから。


メリッサはリーフをギュッと抱きしめた。

「私がこの未来を見たのは、シャルルに会った時。この子の背中にあんたの妖精の紋章を刻んだのは、運命を引き寄せるため。どうか、どうかこの世界を救って欲しい・・・。この美しい世界を。

私にできることなら何でもするから。

約束するよ、あんたと結ばれるべき男たちは、素晴らしい男たちだよ。結ばれたことを決して後悔しないよ。」


リーフは泣きながらうなずいた。もう他に、道はないのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る