第101話 誘拐!
リーフ、クルト、ロックとそのお友達は、馬の体力づくりのためのお散歩、と称して城を出ることに成功した。
力持ちの二頭に馬車を引かせて、大きな樽を4つ乗せている。
もちろんその中の一つには薬で眠っているエリー姫が入っているのだ・・・。
「うう、緊張するなぁ・・・。人生で誘拐なんてするとは思わなかったよ・・・。」
ビクビクするリーフ。
「そんな様子だとかえって怪しまれるよ。堂々としてれば大丈夫だから。」
リーフはクルトの馬に乗せてもらっていた。
途中で門番に引っかかったが、開けられた樽がエリー姫が入ってなかったものだったことと、バニイの口添えもあって事なきを得た。
自分の腕の中で心配そうにあたりを見回すリーフを、クルトはじっと見る。
その白い首筋には、ブルー王がこれ見よがしに付けたと思われる赤い跡がいくつもあった。
自分でも意外なほど、嫉妬で狂いそうになっている。
王に鍵を借りるためには仕方がなかったとはいえ、リーフを王のもとに行かせたくなかった。
バニイに支えられて馬小屋に帰って来た時のリーフの顔は、赤く上気して、息をのむほど色気があった。
最初に見た時は小さくて、ただの子供に見えたのに、王に触れられるたび、艶やかな美しさが増してきているような気がした。
いっそこの子を連れてどこか遠くへ行き、二人で暮らしてしまおうか・・・と思うことがある。
馬の世話をし、畑を作り、森で木を切る・・・。お城や町の中のような華やかさはないけれど、リーフと一緒ならば退屈もせず穏やかで楽しい日々を過ごせるだろう。
何もかも忘れて。
(だが・・・、そうはいかない。ぼくにはまだやらなければならないことがある・・・。)
一行は山道に入った。一回通った道なので、さほど心配はない。気温が下がり、道端に雪が見えてきたが、天気も悪くないので夕方までには”竜の舌の洞窟”に到着するだろう。
本格的な雪道を前に、準備もかねて休憩をする。
「冷たーい!食べちゃお!・・・げげ、まずっ!」
「ロック、それ狐のフンでも入ってたんじゃない?」
馬から降りて、雪で遊ぶリーフとロック。
リーフと同じレベルではしゃぐのはロックだけだった。
「そう言えば、お友達の・・・サスケさんはどこにいるの?馬に乗らなくていいの?」
「いいの、いいの!サスケは自由についてきているから!」
「そなの・・・?」
かなり怪しい人物、サスケ。ロックもただの流浪の旅人ではないことは、リーフ以外の人間には分かっていた。
「かくれんぼしよう、リーフ!ただし雪の中に埋もれるのはなしだよ!20カウントから開始ね!」
「えっ?ここで?待ってよロック、危ないしそんな時間は・・・・」
もちろん、そんなこと聞きもしないでロックは駆けていく。
「っていうか、いきなりボクが鬼とか・・・」
仕方なくリーフは20数えてからロックを探しに行った。
「迷った・・・・・・・・・・・」
当然と言えば当然、もともと慣れない世界の慣れない雪山、リーフはあっさり道に迷ってしまった。
山に入れば必ず迷子になってる気がする。
「大自然とは恐ろしいものだ・・・」お前がドジなだけである。
「にしても困ったな。時間がないから早く戻らないと。」
夜になると雪山は厄介だし、何より樽の中で眠らされているエリー姫が起きてしまう。
速足で急いでいると、急に視界が低くなった。
ズサッ
「うわああっ!」リーフは崖の端に突っ込んでしまったのだ。
落ちる!と思った時、後ろから抱きかかえられた。
黒い、背の高い影・・・
「サスケさん!!」
サスケだった。素早くリーフを安全なところに移動させる。
よく見るとその崖はかなり深くて、落ちたらひとたまりもなかっただろう。
「こわ・・っ。ありがとう、サスケさん!助かりました・・・」
サスケはニコリともせず、小さく頭を下げた。
「皆の近くまで送ります」
リーフについてこい、と合図をする。
「あ、そうだ、ロックは?あの子も迷子になってない?」
「なっておりましたが、先に送り届けました。」
「そっか、よかった!」
速足のサスケに追いつこうと小走りするリーフ。
(なんだか、サスケさんといると緊張するなぁ・・・何かしゃべらなきゃ・・・)
沈黙が怖い、中身はダメダメ高校生男子リーフ。
「あ、ほら、サスケさん、この木の実可愛いですね!サクランボみたいに二つくっついていて、赤と青で綺麗だよ。赤いほう、だべちゃお・・」
それまで関心がなさそうだったサスケがバッと振り向く。「いけません!」
リーフが赤い実を口に入れた後だった。びっくりしてゴクッと飲み込んでしまった。
「!!!!!」
ばたっと倒れるリーフ。体が全く動かない。
「この実を食べるとは・・・!もうひとつの青い実はどこですか!」
リーフは口もきけなくなっていたので、目で、自分の手の中を見た。
「これか」
サスケは急ぎリーフの口に青い実を突っ込む。しかし飲み込むことも出来なかった。
「ならば・・・」
サスケは近くの木をナイフで切って水を取り、自分の口に含むと、青い木の実と一緒にリーフに口に流し込んだ。
サスケが口移しするために顔の下半分を隠していたマスクを取っている。
美しい青年だった。
ゲホッと咳き込むと同時に、リーフの体は動けるようになった。まだ呼吸がつらいが。
「あ・・・は・・・ありが・・とう・・サスケさん・・・。この実は毒だったんだね・・・」
「赤が毒、青が解毒です。乾燥させたものは薬に使えて珍重されておりますが、生の実を口に入れるのはどちらの色でも危険です。もし青の実を先に食べていたら、過剰に体に反応してお助けできなかったかもしれません。」
リーフはぞっとした。死んでたかもしれないのだ。
「はは・・・。うかつに森の物を食べちゃいけないね・・・。」
サスケはフッと笑った。
(サスケさん、笑うんだ)と心の中で思う。
「そうだ、何かお礼しなくちゃね。そうだ、洞窟に着いたらケーキでも焼く・・・」
「これで結構です」
サスケはまだ座り込んでいるリーフに膝をついてキスをした。口移しでは、ない。
驚いたリーフがサスケの肩を押す。その時・・・
(熱い!)
リーフの太ももにある妖精の紋章が熱く反応した。サスケも自分の肩が熱くなったのを感じる。
それは、紅い欠片を持っている者の印だった。
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