第94話 赤毛のロック

「クルトにはこんな姿見られたくなかったな・・・」

森の道を歩きながらリーフはつぶやいた。


クルトは何も聞かない。優しく肩を抱いてくれているだけ。

ベラ湖が近くなってきた。


「エリー姫がいらっしゃる・・・。その、王のマントを羽織っているのはまずいな。

リーフ、ぼくのを使って。」


クルトはブルーのマントを捨てて、自分のマントでリーフを包んだ。

「・・・ありがとう」

クルトはポンポンと頭を優しく叩く。



森から帰ってきた二人を見て、エリー姫とお付きの者たちはざわついた。

リーフは裸にマントを羽織って、あちこち傷だらけ、髪はぼさぼさなのだから仕方ない。


「あなたたち、森の中でいったい何をしていたの?!まったく・・・これだから身分の卑しいものは嫌なのよ。場所も時間もわきまえずいやらしいことを・・・!」

エリー姫が醜い顔をさらに歪めて言った。


何の反論も出来ない。クルトはただ、リーフに寄り添ってくれている。


先に帰っていたブルーは、表情のない顔で二人を見ている。


「あなた、クロは見つかったの?大事な仔馬を探さずにそんなことをしていたのなら・・・そんな役立たずは生きている価値もないわ!」

「そんな・・・」



「こっこにいますよ~!」

黒い仔馬を連れた紅い髪の少年がトコトコ歩いてきた。

「あいたっ」

なぜか歩きながらクロちゃんに足を踏まれている。

「えへへ。可愛い仔馬ですね!あいたたたっ」

今度は髪の毛を噛まれている。


クロはリーフを見つけると嬉しそうに駆け寄ってきた。

「クロちゃん無事でよかったぁ」ぎゅっと抱きしめる。


「あはは、よかったねぇ」

「クロちゃんを連れてきてくれてありがとう・・・。ところでキミは・・・?」


赤毛の男の子は少年の頃のアポロンのような、満面の笑顔で答えた。

「ボク、ロックっていいます!よろしくっ!」


リーフに近づこうとして、なぜか、なぜかロックはこけた。リーフを見ながらエヘヘと笑う。

思わずリーフも笑った。


「ふーん、面白い男ね」

エリー姫が止めようとする侍女を振り切って近づいてきた。

ロックは優雅に姫に向かってひざをつく。


「お会いできて光栄です、姫様。

わたくしは流浪の旅人、ロックと申します。帰る家も頼る身内もない身の上、よろしければお側においてくださいませ。」


「ほほほ、本当に面白い男!」エリー姫は高笑いした。

「いいわ、おまえがいると、退屈しなさそうね。

そこにいる二人を好きに使っていいから、馬番をなさい。」


そこにいる二人とはリーフとクルトのことらしい。好きにしていいとか言われているけど、どうやら処分は免れた。


「キミを好きにしていいって!」

ロックはリーフに向かってウィンクする。ロックは一瞬で周りを明るくする不思議な力があるようだった。

クルトもロックと握手したりしてニコニコしている。


ブルーは突然現れた少年を一瞥するだけだった。

しかしこの中でブルーだけは気づいていた。近くに潜む。もう一人の”影”の存在に。

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