第93話 あの時

ブルーはただ、思い通りにならない自分とリーフにいら立っていた。


腹心の部下ベイドに対しても、リーフとキスしたと思うと穏やかではいられず、数日前からツバサの国へ偵察に行かせた。側にいさせたくなかったからだ。


「ちょっとまって、ブルーさん!ボクたち、その・・・まだしてないって、どういう・・・」

「だまれ」

ブルーはリーフをしゃべらせまいとキスをする。リーフの頭は混乱していた。

(覚悟を決めて、眠り薬まで飲んだのに、どういうこと?)


安心する気持ちもあるが、泣かないと決めたあの覚悟が台無しにされた気がして、怒りの気持ちの方が大きかった。


「ばかっ・・・!ばかやろーっ!」

リーフはブルーの胸をどんどん叩く。ブルーは無視してリーフの体を求め続けた。

「ブルーさんなんか大嫌いだよ!誰か助けて!」

その叫び声は深い森にむなしく吸い込まれていく。

リーフは何とか逃げようともがいたため、小さい棘で体中傷だらけになってしまった。

傷跡から、薄く血がにじみ出る。ブルーはその血を丹念に舐めた。

リーフは背中からゾクゾクッとして体が跳ね上がる。


「私のせいでお前が流す血がもっと見たい」

「やだあっ」

ブルーが乱暴に押し入ろうとするのでリーフは大暴れした。

「どうしてこんなとこで・・こんなときにしようとするんだよ!この前みたいに薬で眠らせてからすればいいじゃない!愛してないんだからそうすればいいでしょう!!」


ブルーの動きがピタリと止まった。

「あいして・・・ない?」その言葉は心臓奥に突き刺さる。


「だって、赤のドラゴンの欠片のせいで、ブルーはこんなことボクにしようとするんでしょう?!」


「リーフ・・・わたしは・・・」


愛してる、と言えなかった。なぜか言えなかった。



「あの時・・・お前が薬を飲んで眠りにつく前、お前は自分のことを嬉しそうに話していた。覚えてないだろうが・・・。そしてポロポロとその閉じた瞳から涙がこぼれ落ちたのだ・・・。

わたしは、お前が泣くのがつらかった・・・。幸せな顔を見たいと思ったから抱けなかったんだ・・・」


「ブルー・・・

ブルー・・・まさか・・・」


リーフの頬にブルーの瞳から流れた涙が落ちていた。



遠くから「リーフ、リーフ・・・」と呼ぶクルトの声が聞こえる。


ブルーは無言でリーフの上から立ち上がり、自分のマントを脱いで被せた。

そして振り向くことなく立ち去る。


リーフが動けないままでいると、クルトがガサガサと草の影から現れた。

「リーフ!ここにいたんだね、よかっ・・・」

裸にマントが掛けられて横たわるリーフに気付く。


「リーフ!いったい何が・・・!」

クルトはすぐに、そのマントがブルー王の物だとわかった。


「リーフ・・・・」

ただ茫然としているリーフをクルトは抱きしめた。


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