第75話 甘い香り
扉が開いて、ブルーが入ってきた。
リーフの心臓は口から飛び出しそうである。
長身で美しい顔、黒と青が混ざった髪、湖の青い瞳を持つ王が、震える小さな少女をまっすぐに見つめる。
ブルーは綺麗なグラスと飲み物の入った瓶を自ら持ってきていた。
王が酒を運ぶなどと、と周りの家来たちに止められたが、どうしてもと言って自分で用意したのだった。
「とても軽くて甘い酒だ、リーフ。お前の口にも合うだろう。」
ブルーは暖炉の前、リーフの横に座った。リーフの体はビクッと跳ね上がる。
グラスを握らされる時、ブルーの手がリーフの手に重なった。その手が間もなく自分の体をどうするのか考えただけで気が遠くなりそうになる。
何も考えないようにするためにお酒を多めに一口飲んでみる。
それは本当に甘くて、何かの味に似ていた。
「そうだ・・・お祭りの棒ジュースのイチゴ味だ・・・」
リーフはブルーに聞こえるか聞こえないかぐらいの声でつぶやいた。
”お祭り”が懐かしくて涙が出そうになる。
でも、リーフは赤のドラゴンの欠片を集めると決心した時から誓ったことがあった。
体は女の子でも、ボクは男なんだから。
こんなことでは絶対泣かないんだと。
唇を食いしばって涙をこらえるリーフ。
・・・の割には、お酒を飲み終わったら始まってしまうと思ったので、チビチビゆっくり飲んで時間稼ぎしていたりするのだが・・・・。
そんなリーフの様子をじっと見つめるブルー王。
実は、いつからかわからないが、ブルーはこの小さな少女のことを、愛おしい、と思うようになっていた。
ついさっきまで自覚はなかった。
話し合いの末、リーフが愛し合うことを決心した時、その瞳を見て、傷つけたくないと思った。
真っ先に考えたのは、リーフがいかにすれば安らかな気持ちで自分を受け入れられるのか、ということだった。
お酒の好みを考えたり、もし望むならば、妃として迎えてもいいとさえ考えた。
これは・・この気持ちは赤のドラゴンの力のせいなのだろうか。
しかし同時に葛藤がまれる。
赤のドラゴンの再生のためにこの少女を抱くのならば、他の12人の男にもその体を委ねなければならないということなのだ。
自分の気持ちに気付いた今、リーフをほかの男たちに差し出すことに耐えられるのだろうか。
少し前まではリーフをひどく乱暴に扱っていたのに、この感情はどうしたらいいものか。
ブルー王も戸惑っているのだった。
リーフはついにお酒を飲み干してしまった。
グラスには甘い香りしか残っていない。
ブルーはグラスを取り上げて、リーフを引き寄せ、優しくキスをした。
とっさに身をよじって逃げるリーフ。
「まってください、まだボクは・・・心臓が・・・」
決心の付かない心臓の上を王子の手が包む。
暖炉の前に敷かれた毛足の長いカーペットの上に2人は重なった。
王子はリーフの髪をゆっくりなでて、おでこにキスをする。
乱暴にされた時よりも、逃げられないとリーフは思った。
ブルーは長い間、キスをした。
リーフも頭がボウッとしてくる。
お酒が今頃全身に廻ったようで、体中が熱くなった。
「大丈夫だ・・・」
囁きながら王はリーフの服を脱がし始めた。
王の手が直接肌に触れ、ハッとするリーフ。
「やっぱり、まってください!ちょっと・・・まって・・・・」
「私は待てない」
「・・・知りたいんです!せめてあなたのことが!」
リーフはブルーと瞳を合わせた。
「覚悟は・・、出来てるつもりだけど・・・。すごい理由があってこんなことをするとしても、ただ義務としてするなんて嫌だよ・・・。
その前にブルーのことをもっと教えてほしい・・・。どういう風に生きてきたのか、とか・・・。」
ブルーはしばらく考えて、静かに頷いた。
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