第74話 天才ロック
「見つけるって、どうやってやるんだ、ロック。」
ロックと呼ばれた少年は、兄王子アーサーと同じ赤い髪、しかしとても華奢で可愛らしい顔立ちで、たくましい父親に似た兄とは違い、はかなげで美しい母親にそっくりだった。
「計算です、兄上!」
ロックはおもむろに羊皮紙とペンを机に広げる。そして、周りの人間にはよくわからない計算式をツラツラと書き始めた。
「人間の、いえ、この世のありとあらゆる出来事は計算である程度予測することができるのです。ボクは、この計算をもとにリーフさんを探し出そうと思います。」
書いてる途中にどこをどうやったのかインクを自分の顔にぶちまけるロック。しかもそれを拭いたのがジャックの上着だったので一通り怒られるのだった。
ごめんなさいと謝る弟をしばし眺めるアーサー。
この弟、ロック王子は、生まれながらにしてか弱く、かなりのドジッ子だ。
しかし恐ろしいほどの天才だった。
一ケタの齢のうちに国中の難解と言われている本を読んでしまったし、12歳の今では国の予算の計画や戦術までその土台を考えている。
普通なら「計算で人を探す」なんて聞いたら笑い飛ばすだろうが、ロックなら出来るような気がした。
「あ、ご安心ください兄上、今回のヒョウガの国に関する対策は78パターンご用意し、記しておきました。
すべて騎士長ダグさんに説明済みです。だから当面、力ではお役に立てないボクは必要ないと思いますよ。
ボクの護衛にはサスケを連れて行きます。ねえ、サスケ?」
サスケ、と呼ばれた男がいつの間にかロックの背後に控えていた。
全身黒ずくめ、顔の下半分は布で隠れている。すらりとした長身、しなやかそうな体。腰には細身の長剣を携えている。
サスケは、ロックが生まれた時から守り役として仕えていて、ツルギの国でも四天王と呼ばれる騎士のうちの一人だった。彼がついていたら、いかにドジッ子のロックと言えども安全だろう。
これも計算か、ロック王子を止める理由は見つからなかった。
しかもいつ戦争になってもおかしくないこの状況では、城にいない方が安全かもしれない。
「わかった。お前の身分を隠すという条件付きで、旅を許可しよう。リーフを見つけて帰ってくれ。」
「はい、お任せください兄上っ!やった!そとに出られるぞっ!」
わーいとピョンピョン跳ねるロック。3回目の着地でこけたが、凄く嬉しそうだ。
「オレが時々様子を見に行こう。居場所を知らせるのに鳥の香を焚いてくれ、サスケ。」
とジャック。サスケは無言でうなずいた。
「まずは、雪山にいくのです!」ロックは元気よく言った。
雪山、竜の舌の洞窟のリーフ。
「た、大変なことになった・・・・・・・・・・・・」
リーフは途方に暮れていた。
自分が13人の男と愛し合わなければこの世界が黒のドラゴンに破壊されてしまう、なんて、どう考えても納得できない、無茶である。
ブルー王が言うには、その13人のうち今分かっているのは、アーサー王子、怪鳥ジャック、マーリン王子、ララ王子、シロクマのベイド、そしてブルー王自身の6人。
「あと7人・・・。せめてそれが美女ばかりだったら・・・・」
しかし赤のドラゴンの欠片が宿るのは男性ばかり、ガクリと肩を落とすリーフ。
しかし、自分が嫌だから、出来ないからという理由で、この世界を危機にさらしてもいいものか。
根っからの日本人体質”THE気ぃ使い”の血がもんもんと悩ませる。
この世界に来て日は浅いが、宿屋のハルさんや、おじいちゃん兵士、スカーレットさんなど親切にしてくれた人がたくさんいるのだ。死んで欲しくなんてない。
(え・・・えっちするなんて、たいしたことないかもしれないし・・・。みんなしてるんだろうし・・・。
すぐすむだろうし・・・。)
思わずひらがなで考えてごまかすリーフ。
(せめて、せめてララだけでも女の子の姿だったら・・・・・!)
などと往生際の悪いことも考える。
というのも、ただ今リーフはブルー王子を洞窟の寝室で待つ身だった。要するに無理矢理ではあるが、力ではなく、理論で組み敷かれて、ブルーと愛し合うことになった、のである。
自分一人の純潔と何万、何百万という人の命。
考えるまでもない。
簡単な食事と入浴を済ませて、部屋で待つように言われた。ブルーは用事を済ませてから来るという。
今すぐ逃げ出したい、出来れば元の世界に帰りたいと願うリーフ。
暖炉の真ん前に座っていても寒気は消えない。
何度も何度も入口の扉を見る。あの扉が開いたら・・・、ボクは・・・。
燃やしていた薪がカタリと音を立てて崩れた時、扉も開いた。
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