第72話 青いドラゴン

「だれか!だれか早く!」


ブルー王の叫び声に一番早く反応したのは、竜の舌の洞窟の番人、シロクマのベイドだった。


ブルーが気を失った裸のリーフを抱えて奥の部屋から出てきたところで、それを見たベイドはひどく驚いた。


「こ、これは一体どうしたことですか・・・?!」


「赤のドラゴンが現れたのだ。リーフは・・・」

ブルーはさっきのことをベイドに説明した。その間にリーフが目を覚ます。


「よかった、気付いたようですな。薬草をお出しいたしますので、それ飲めば楽になるでしょう。」



ベイドは氷の中で咲くという珍しい花から作ったお茶を作ってくれた。

リーフはふかふかの毛布にくるまれながらそれを飲む。


「美味しい・・・!」なぜかバニラアイスの味がした。体の中からポカポカしてくる。


「あれ?」右手に違和感を感じて、見ると、ひし形の紅いあざが出来ていた。

「火傷かな?」赤いドラゴンに燃やされたことを思い出すリーフ。


「よく生きてたな、ボク・・・・」思い出したらゾッとする。


ブルーはリーフのその右手を取り、自分の心臓に当てた。

「えっ、なに?!」


リーフの右手と、ブルーの心臓が赤く光り始める。

「まさか・・・」と言ったベイドの全身も細かく赤く光っている。


すると3人の周辺がポワッと暖かくなった。

「あつ・・・熱い!」

リーフが、妖精の紋章の辺りを手で押さえる。熱いというより、痛い、何か細いものが皮膚の中で燃えながら回転しているような感覚があった。


たまらず毛布をめくって太ももを見る。

「あれっ・・・?」


紋章の形が変わっていた。



丸く、マーリンの血で掘られた赤い刺青の周りに、見たことのない文字のようなものに縁どられている。


「なに、これ・・・!」

そしてリーフの右の掌に出来ていたひし形の紅いあざは消えていた。


「リーフ・・・、お前は・・・。そうか、お前が王子たちを引き付けるわけが分かった・・・。

そしてこの大陸の、長い間の秘密も解けるだろう」とブルーが言った。

「秘密?」

ブルーが何を言いたいのか全く分からない。ドラゴンを見たということだけでも理解しがたいのに。


「やっぱりねー」

どこからともなく、クルクルが会話に参加してきた。

「あれ、クルクル、人間になってないのにしゃべってる!」驚くリーフ。

クルクルはリーフの膝にポンポンと乗って座った。


「リーフが困っているみたいだから、ボクがちょっと説明してあげるよ。」


森の大賢者クルクルが語りだす。

「長くなるから、手短に言うね。


この世界は2人のドラゴンが作ったんだ。

赤いドラゴンと青いドラゴンね。

赤と青は仲の良い夫婦だったと思って。


世界は長い間平和だったんだけど、ある時ほかの世界から黒いドラゴンがやって来たんだ。

黒いドラゴンは、青いドラゴンを赤いドラゴンから奪ってしまった。

黒いドラゴンが青いドラゴンに無理矢理産ませたのは、「邪悪」な存在だった。


それが「悪魔」だったり「人間」だったのね。


邪悪な存在は平和だった世界を一変させてしまったんだ。

破壊するし、奪うし、殺す。


青いドラゴンは嘆き悲しんで、邪悪な存在を消し去ってしまおうとしたんだ。

しかし黒いドラゴンが悪魔と人間に協力したせいで、青いドラゴンは死んでしまった。


それを知った赤いドラゴンは怒り狂い、その心臓をかけて黒いドラゴンを破壊したんだ。


赤いドラゴンの心臓は粉々に砕けて、この世界に散らばった。


散らばった心臓はその存在を隠すように人間の、男の体に入り込んだんだ。


赤いドラゴンの心臓がその身に宿る者は、いろんな形で人間には持てない力を持っている。」



「あ・・・っ!じゃあ、ベイドさんがシロクマなのも、ブルーが一瞬で5人の男たちを殺した力も、紅いドラゴンの心臓の欠片のせいなの・・・?」


「たぶんそう」クルクルは気軽に答える。


「ツルギの国のアーサー王子も、怪鳥ジャックも、ホシフルの国のマーリン、ララ両王子もそうだろう。」とブルー。


「どうしてわかるの?」

リーフは恐る恐る聞いてみる。


「このドラゴンの欠片は、長い年月を経て、一つに集まろうとしている。

恐らく、黒いドラゴンの復活を予期した赤いドラゴンが再生しようとしているんだ。


赤いドラゴンの欠片にはただ一つ、青いドラゴンの涙が入ったものがあって、それのみが女に宿ると言われている。


そしてその欠片を求めて、赤の欠片が宿る男が惹かれ、集まるのだ。そしていずれ全てが一つになる」


「あの・・・・まさかその…涙入りの欠片って・・・」

すごくすごく嫌な予感がするリーフ。


「そう、お前の中にあるんだよリーフ。お前が欠片を持つ男に愛されることによって、心臓は再生されるんだ。」

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