第54話 クルクル

くるんとした薄い茶色の大きな目。


「こだぬき?」


その小さな手と大きな瞳の持ち主は、こだぬきみたいにコロコロふわふわしている。

リーフが手に持っている焼きたてのチョコケーキを取ろうと一生懸命手を伸ばしていた。


「かっ、かわい~~~!」

リーフがその動物をそっと抱き上げる。

茶色くてフワフワの毛に、頭のてっぺんだけちょっと金の毛がくせ毛のように生えていてすごく愛らしかった。

「リーフ様申し訳ありません、そいつは私が道中、森で拾ってきたやつなんです。」

「あ、おじいちゃん!」

城までお供してきた老兵士もこの宴会に加わっていたようだ。


「クルクルという動物です。クルクルーと鳴くのでこの名が付きました。かなり珍しいやつなんですぞ。」


クルクルはリーフを気に入ったのか、べろべろと顔を舐めまわしてきた。

「うひゃーくすぐったいなぁ!でも可愛いや。そうそう、はいこれ。」

リーフがチョコケーキを小さくちぎって一切れ渡そうとすると、クルクルは大きいほうをサッと奪い取った。


「あはは、くいしんぼうだなぁキミは。ねえおじいさん、この子どうするの?」

「市場で売ってしまおうかと思っておりましたが、リーフ様がお気に召したのでしたら、お側においてやってくだされ。少しでもリーフ様のお慰めになれば、わたくしにはこの上ない喜びですぞ。」

「くれくの?いいの?やったー!」


リーフは昔から生き物が好きで、動物を飼うのが夢だったが、なにせしがないマンション暮らし、金魚ぐらいしか飼えなかったのだった。

この可愛い生き物は、自分の体よりも大きいケーキをもぐもぐ食べている。

金の毛の生えた頭をそっとなでると、手のひらに暖かいぬくもりを感じた。


お腹が膨れてまんまるになったクルクルを抱っこすると、すぐにいびきをかきながら眠ってしまった。

「気持ちよさそうだなぁ・・・」


リーフもいつの間にか、クルクルと一緒に眠りに落ちる。


そののち、マーリン王子が宴会場と化した部屋に入ってきた。

兵士たちの酔いは一瞬で冷めたようで、皆「失礼しましたっ!」と言いながら部屋を出て行った。


皆がいなくなったころ、スカーレットもやって来た。

「王子、では今夜・・・。早くリーフ様を名実とも王子のものになさいませんと、ララ様のお心を知った今ご兄弟で争いになるやもしれませぬ。

王子のご寵愛をう受ければ、リーフ様もご決心なさいましょう。」



マーリン王子はリーフをベッドに運ぶ。

冷たいシーツに置かれて、リーフは少し目が覚める。


スカーレットは小さな小瓶に入った液体を、仰向けのリーフの唇に流し込んだ。

まだ目覚めていない体に甘い何かが入って行く。


「・・・なに・・・?」


その液体は、ホシフルの国の薬草の園で栽培されている特別な花から出来た秘薬。

これが愛の秘薬であることをリーフは知らない。

体が奥から熱くなってくる。


王子も同じ薬を飲んだ。

その口でリーフにキスをする。

甘い液体の香りが混ざり合って、変な気分になってきた。


(もっとしてほしいな・・って、王子相手なのにそんな・・・)

スカーレットが部屋の扉を閉めて出て行ってしまった。

「まって・・・スカーレットさん・・・いま二人にされたら・・・」


リーフの口をふさぐように、王子の長いキス。体中のあちこちが敏感に反応する。

頭か酸欠のようにボーッとして、王子に抵抗できなくなってしまった。

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