第37話 夜のお菓子

マーリンに、テントに連れて行かれるリーフ。



「まってくださいっ!ボクはマントでも貸してもらって・・・野宿でイイですから~~!」


リーフは葡萄酒を飲んだせいで足がふらつき、マーリン王子によろけて倒れ掛かる。

マーリンはリーフの肩を抱き包み、またキスをした。


テントの入口を開ける王子。中には簡単なベッドがしつらえてある。


「やばい…気がする!」 今夜も身の危険を感じるリーフ。

その腕から逃げ出そうと抵抗するが王子の力は強い。


と、そこへ。


「お嬢さ~ん!忘れ物ですぞ~~!」


おじいちゃん兵士が馬に乗ってやって来た!!


老兵士は長年の友である灰色の愛馬を華麗に操り、リーフの横で降りると、まずは王子に向かって、膝をついてうやうやしく頭を下げた。

そしてリーフのほうに向きなおし、あの紫の壺を掲げる。


「お嬢さん、これを城に忘れて行かれましたな。大事なものではござらぬのか」


「あ、お菓子の壺!!ありがとう、これがあったらお菓子が焼けて便利なんだ!」


リーフは嬉しそうに壺を受け取った。

海に落ちたりのドタバタ騒ぎでスッカリ忘れていた。



「そうだ、せっかくのキャンプだし、みなさんにお菓子を焼いてあげるね!」

ウキウキしながらリーフはツボから材料を取り出す。

こんな夜はフワフワのシュークリームなんてどうだろう。



はしゃぐリーフ、お菓子作りに夢中ですっかり王子のことを忘れている。


何か言おうとしたスカーレットだったが、王子に「好きにさせてよい」と止められた。

王子は焚火の前に座り直し、お菓子を作るリーフを愛おしそうに見つめる。


スカーレットも、リーフのお菓子をまた食べれると思うと嬉しいのだった。

「マーリン王子、あの娘はとても不思議な娘ですね。

とても、・・・なんといいますか、普通の女の子ではなくて・・・説明できないのですが。」


「ああ・・・。」銀髪の美しい王子もうなずいた。



ハート模様が付いた紫の壺からはいい匂いがして、ポンポンとシュークリームが飛び出す。

リーフはこのキャンプにいる30人分をあっという間に焼き上げた。

仕上げにカスタードクリームをいっぱい詰めて出来上がり!


「お嬢さんのお菓子はなんてすばらしいんじゃ!」

老兵士がシュークリームを手に取って感動する。


そして匂いにつられて待ちきれない兵士たちに配ると、皆口々にリーフのシュークリームを褒めたたえた。

「こんなおいしいもの食べたことがない!」

「奇跡の味だ!」

「家族にも食べさせてやりたい・・・」などなど。



疲れ切っていた兵士たちに活気が戻る。

スカーレットも感動しつつパクパク食べた。


「あれ、スカーレットさん、口の周りにクリームがついてるよ・・・」

慣れていないからか、急いで食べたせいか、スカーレットの口の周りにはカスタードがたくさんついていた。

リーフは指でとってあげて、ペロッとなめた。


なぜが真っ赤になって照れるスカーレット。

美しい顔が焦る様子はとても可愛かった。


(かっかわいいっ!)


リーフは、強そうな女剣士がお菓子を食べて照れ照れ、というこの状況に、ゾクゾクして萌えた。


(そうだそうだ、ボクは今、女の子じゃないか!ということは・・・!)

リーフはやっと、自分の役得に気が付いた。

必要以上にスカーレットに近づいて、ペトペト触ったりする。

女の子同士だから、やらしくないのである!!


おまけにおじいちゃん兵士もおしゃべりに参加してきて、昔の武勇伝などをおもしろおかしく話してくれて、お菓子を食べつつ楽しい時間になってきた。


しばらくリーフはキャッキャッと浮かれていたが、いつの間にかグッスリ眠り込んでしまった。

彼女の膝で猫のように丸っくなっている黒髪の女の子をみて、あきれるスカーレット。


「まったくこの子は・・・。」

リーフのあどけない頬にかかる黒髪を、微笑しながらそっとなでる。


その様子を優しく見ていた王子は言った。

「リーフをテントに運んでくれ。

婚儀は彼女が寝ているうちに、今夜行おう」

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