第26話 悪魔との契約


「見かけよりたいした傷じゃないようですな。」


リーフはイスに腰かけて、白い髭のおじいちゃん医師にケガを診てもらっている。


殴られた跡も、切り傷も痛々しいが、すぐに治るだろうと言われた。



「そうか、よかった・・・」 安心した表情のマーリン王子。


その横には、王子を見つめる困惑したスカーレット。



「一体・・・、何があったんですか、王子!」


「わからないんだ・・・。いつものように、夜になると彼が来て、私は闇に消えた。

しかし・・・ 今日は扉が見えたんだ。

闇の中に扉があって、とてもいい匂いがして、とても甘くて、とても暖かい光を感じたんだ。

近づいて、開けると、彼女がいた・・・。」



そこにいた者は皆一斉にリーフを見た。


変な壺を抱えて座っている傷だらけの小さな女の子。(巨乳)


「1000年の呪いをこの娘が解いたというのですか?」スカーレットは信じられなかった。



「あ・・・あの、みなさま・・・。ボクには何のことやらわからないのですが・・・・」


ああ、そうかと少し考える王子。

「そうだね、君にはひどいことをしてしまったようだし、少し説明しよう。」


マーリン王子は優しい声で語り始めた。





今から1000年前。


大陸の東端にある海と山に挟まれたこの、ホシフルの国は、妖精の末裔と言われている一族が納めていた。


この一族は美しいだけではなく、たいへん穏やかで優秀で、争い事を好まないため、国は平和に栄えてきた。


人々は王族を尊敬し、王族もまた人々を守り大切にしていた。



ところが、小さいながらも、海からと山からに恵みがあり自然豊かなこの国を狙うものが出てきた。



北の王国、ヒョウガの国である。


ヒョウガの国は強力な武力でホシフルの国に攻め入り、国民の半分と王族のほとんどを殺してしまった。


最後まで争いを避けようとしていた、一族の最後の一人となった王子はその惨状を見て悲しみ、怒り狂い、

妖精族の禁断の魔法を使ってしまったのだ。


それは悪魔の契約と呼ばれるもので、未来永劫の自分の半分を悪魔に売り渡す代わりに滅びの呪文を借りるというもの。


果たして、一夜にしてヒョウガの国の兵士は灰になった。



「未来永劫半分を差し出すというのは、一族の子孫までずっと、夜の間悪魔に支配されるということだったのです。」



夜の悪魔は恐ろしく残酷だった。しかし、その記憶は昼の王子にはない。


「事実のみを、私がお伝えしていました。私は、王子の一族をお守りし、語り部としてお仕えする役目の末裔です。」とスカーレット。「夜のご自分に耐えられず、自ら命を絶ってしまわれる王族の方も多かったと聞いております。」


それでも1000年子孫が残ってきたのは、夜の悪魔の仕業だという。

呪いを解こうと天の力も求めたが、ひとたび悪魔と契約した者の血は消えることなく、ことごとく失敗してきたのだった。



その強力な呪いが、どういうわけか今晩解けたのである。



「・・・お前の力か?」王子はリーフを見つめた。


「違うと思いますよ!じゃっボクはこれで!」

努めて明るく立ち去ろうとするリーフ・・・・が、王子に抱きしめられてすぐに身動きが取れなくなった。


「お願いだ、行かないでほしい・・・そばにいてほしい・・・。もう悪魔に支配されたくない・・・!」


「ええっ」


スカーレットも大きくうなずいた。

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