第25話 クッキーと呪い


「お菓子?」


我ながら、人生の最後かもしれないという時に、何をお願いしてるんだとリーフは思ったが、 無性に自分が作ったお菓子を食べたくなった。


さっきの壺で作ったチョコチップクッキーが部屋の隅に転がっている。


変な願いだったが、今ここで叶えられそうな願いなんて、これぐらいしかないだろう。


お菓子・・・リーフ(大ちゃん)が過酷な学校生活を生き抜く 為に必要不可欠だった友・・平凡な日々の中で、唯一の楽しみであり安らぎ・・・。


最後にお菓子が食べたい・・・。





マーリン王子は、リーフの目線の先のクッキーを拾い上げた。

甘い香り・・・。


そしてベッドのリーフのところに戻り、クッキーを彼女の口元にもっていく。しかし、


「 欲しかったらとってごらん」


と言って、自分でクッキーをくわえた。



王子の顔はすぐそばにあり、クッキーを食べるためにはリーフが自ら王子にキスしなくてはならない。


なかなか屈辱的だった・・・が、リーフは意を決して首を伸ばし、 王子の口になるべく触れないようにクッキーをかじった。


半分をリーフが、もう半分を王子が飲み込む。




ホロホロと甘いクッキーが 、血の味とともにのどを通っていく。



リーフはゴクンと飲み込んで目を閉じた。


王子が自分に覆いかぶさってきたのが分かる。

手が頬に触れ、顎を掴み、またキスをした。


でも、今度はとてもやさしかった。


体をまさぐる手も、さっきまでの荒々しさがない。


そのうち、王子は動かなくなった。



リーフはそっと目を開ける・・・リーフの上で、茫然としている王子と目が合った。


その目は、夜の恐ろしく冷酷な瞳じゃなくて、 昼に見た優しい王子の瞳だった。


「わ・・・わたしは・・・」


あたりを見回す王子。自分の下に裸で横たわっている、血だらけのリーフを見てびっくりしているようだ。



「だ、大丈夫か?すまない、これは私が・・・?なんということだ、スカーレツト!スカーレット!」


王子は大声でスカーレットを呼びながら、リーフの鎖をほどいてくれた。





裸のリーフをベッドのシーツをそっとくるむ。


スカーレットは大急ぎで走ってきた。


「王子!王子・・・・なのですか?」


王子はうなずく。「これはどういうことなのだ・・・?なぜ私が、この娘にこんな乱暴なことを・・・」


「夜が明ける前に、王子が正気に戻られるとは・・・!呪いが解けたのかもしれません!」



何のことかわからなリーフ。


「とにかく、あちらでご説明を。この者の傷の手当てもいたしませんと。」


心なしか、リーフが無事だったことを、スカーレットは喜んでいるように見えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る