野盗
どうせこれ以上、判断する為の情報は無い。
だったらその無駄なドヤ顔に賭けてみるのも悪く無いだろう。ケイジはそう考えた。
それに時期が形成期――キャラバンタウンが散らされた後、ある程度の地点に複数のキャラバンタウンの芽が出る時期ならば情報も拾いやすいだろう。
午前中は銃手を担当することになって居たケイジが双眼鏡を覗いていたのは、そんな手掛かりを拾う為と言うのが半分。暇だったからと言うのが半分だ。
そんなケイジの眼が、こちらに迫ってくる土煙を捉えた。
『
『同じく確認! 車?』
『……ぽいな。舗装されてねぇ道走ってるわりに随分と良い速度でてんな』
『スカベンジャー?』
『賊だろ』
『賊とか。けーちんが言うと受けるんですけど?』
『ばっか、テメェ俺ほどの紳士はそうはいねぇぜ?』
適当な会話をしながらもパーティリーダー二人は準備を進めていく。頭の中に叩き込んだ地図を引っ張り出し、進行方向とアンノウンが来た方角を確認。錆ヶ原は等高線が殆どない平らな土地だが、それでも地図に載らない様な大岩等はある。スールが使い回してきた地図にはそう言う物も描かれていた。「……」。だが、進行方向にそう言ったモノも無く、来た方角だと誓いオアシスまで結構な距離がある。
『……マジにスカベンジャーかもしんねぇな』
俺よりもテメェの方が勘が良さそうだし、とケイジ。
『それだけどさ、けーちん、マジごめん。ウチも賊だと思う』
『……そーですかい』
まぁ、このご時世近づいてくる連中は全て敵だと思っておいた方が良い。ケイジは銃座を半回転させ、装甲車の背後を撃てるようにしてから、
『今、ハンドル誰だ?』
『あたしよ』
そうか。アンナか。そうなると助手席はリコで後部キャビンに居るにはガララとロイか。そこまで悪い配置じゃねぇな。そう判断する。
『アンナ、後ろから――三台、装甲車が来てる。戦闘になる可能性もそれなりにデケェからよ。きぃつけてくれ。それ以外も準戦闘態勢で待機頼む』
ケイジの言葉に了解の返事が返ってくる。チサの為に空けた
「……言っとくけど近づいて来たーってだけで撃つのは止めといてくれよ?」
ケイジの言葉に振り返ったレサトが、分かっているとでも言う様に敬礼をしてみせた。
『んー? 白いタオル振ってんね』
『ヤァ。こっちでも確認したぜ』
こちらに追い付こうと速度を上げていた三台の装甲車は、その目的を果たすと速度を落とすと一定距離を保つようにしながら走り出した。そして銃手として天井にいる三人が示し合わせた様に白いタオルを振り回し出したのだ。友好的な見方をするなら『降参』『害意は無い』だろう。「……」。ケイジは顔の向きは変えずに視線だけを動かし、三台の装甲車のフロントガラス部分を見る。鉄板が貼られている。カメラで外の映像を拾ってみているのだろう。随分と金掛かってんな。そんなことを思った。
と、そんな三台の内の真ん中の一台の銃手がタオルを回すのを止めて拡声器を取り出した。何となくケイジはコイツは黒だと判断してしまった。傍らに置いて置いたSGの一発目を
『我々はスカベンジャーです! 宜しければ街までご一緒しませんか!』
拡声器から聞こえて来たのはこんな言葉だ。頭がお花畑で、ついでに養蜂やっててハチミツが取れる様な奴じゃないとこんな言葉は信じない。西から入ってくるのを見られていたのだろうか? それでこの辺に疎い新入りだと思って――
――あぁ、ちげぇな。
脳内の言葉を打ち消す。
コイツ等は新人狩りだ。網を張って待って居たのだろう。そして問題は、コイツ等がどの程度やる気なのかだ。
騙せたら狩る。騙せなくても狩る。どちらだろう?
幸いにもというか、例外的にケイジ達は二つのパーティが一緒に行動している。それをスールの様な大きいパーティの一員と取ってくれればそこまでの無茶はしないかもしれない。「……」。ケイジは無言で重機関銃から手を離すと、大きく×を造った。
『そうですか……残念だ』
「ッ!」
背筋に悪寒が奔った。判断が早い。コイツ等、慣れてやがる! 悪態。吐き出すのを耐えて、咄嗟、銃座に顔を引っ込めながら、ボタンを押し込み、重機関銃に弾を吐き出させる。顔を引っ込めているので狙いはバラバラだ。それでも威嚇には成った。成ったし、敵と同じ――いや、それよりも少しだけ早く判断を下していたチサが相手の銃手を落としていた。
『けーちん、クリア!』
だから速く顔を出せ! とチサ。防御の
三台の装甲車は二台が左右に分かれ、一台が退路を塞ぐように後ろに付いていた。銃手は三人とも死んでいた。ケイジ達の側面に付いた一台は首が無い。その装甲車の上にはレサトが居たのでまぁ、色々と察した。走行中の車両の上でも関係なく歩ける多脚戦車はこう言う時頼りになる。
「レサト、そのまま! そこに居ろ!」
『ケイジ、
刹那に差し込まれる相棒の声。ケイジはそれに従い、咄嗟にSGの引き金を引いた。煙装甲車を包む。加速していた装甲車が距離を見誤り、追突してもう一度速度を緩めた。
屋外での
「――はっ」
抜けた後、その装甲車の上を見てケイジは思わず笑った。多脚戦車でなくとも、身体操作に優れていれば走行中の車の上を歩くことは出来る様だ。ガララが張り付く様にして装甲車の上にいた。
『……ねぇケイジ、悪いニュースがあるの』
『そうかい。わりぃが俺の方はそれに見合うニュースはねぇよ。精々が珍プレーの類だ』
リザードマン、蜥蜴ではなくヤモリ説だ。
『前からも来たわ』
『……ヘェーイ、アンナさん? マジでクソなニュースじゃねぇか』
軽口に付き合う気は無いとでも言いたげなアンナからのニュースを確かめる。側面車両を追う様に銃座を回すついでに見てみれば、成程。一台の装甲車がこちらに向かってきていた。フロントバンパーの強化がエグイ。完全にぶつかって止める気だ。
マジで慣れてやがるな。そんなケイジの思いを肯定する様に側面に付いた装甲車からの銃撃。見れば銃眼から突き出されたSMG四門が火を吹いていた。対歩兵用だ。装甲車用ではない。だから大丈夫――と、言いたい所だが……
『APですっ! 孔が開きやした! ひひ、やっこさん達、随分と景気が良いようですよ?』
『ヤァ、素敵な情報だぜ、ロイ? 修理費の請求が楽しみじゃねーか』
運転席のアンナが心配になった。なったが
『チサ! テメェの方でも確認してんだろ? 挟んで、追い込んで、塞ぐ、奴等俺達の足を止めたいらしいぜ?』
『でもウチらこのまま車両戦のが厳しぃんですけど?』
『ヤァ。なんだテメェ、気が合うじゃねぇか――俺達もだよ』
『……どうするの?』
『意表を突いた
その為にはこうすんだよ、と言いながらアンナに
『
重さに引き摺られる様な急加速をしたケイジ達の装甲車が正面にから来ていた装甲車との距離を一気に食い潰す。
追突/衝撃/跳躍/蹴り
合わせて飛んだケイジの蹴りが銃手の首を圧し折った。
あとがき
ストックが無くなりそうだったので、回復していたら投稿するのを忘れた奴が居るらしい……
そんな三連休の過ごし方。天気悪いんだもん!
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